『ガーナ流家族のつくり方-世話する・される者たちの生活誌』  小佐野アコシヤ有紀=著

紹介者:桐越仁美

本書の著者である小佐野さんは、私が東京外国語大学で研究員をしていた当時、同大学のアフリカ専攻に在籍していた学生だった。彼女のガーナ滞在中にクマシという都市を案内したこともある。その時の小佐野さんは、ガーナの人びとが考える「家族」のあり方と自分自身が囚われ続けてきた「家族」の考え方のギャップに戸惑いつつも、日本人である自分を家族として受け入れてくれる人びとに強い関心を抱いていた。本書は、小佐野さんがガーナ人との関わりのなかで学び、これまで当然と思ってきた価値観や家族観が徐々に変容していく様子を描いたものである。

小佐野さんは東京外国語大学に在籍していた時から複数回ガーナに渡っている。本書は、そこで経験した「家族」にまつわるストーリーをエッセイ集のような形でまとめている。登場人物は、東京外国語大学で知り合ったガーナ人の学生や、ガーナ大学留学中に出会った学生たちとその家族、フィールドワーク中にお世話になった家族、日本に暮らすガーナ人、また小佐野さんの親族などである。本書は、彼らとの会話や日々のやり取りのなかで発見したことや疑問に思った点を取り上げ、小佐野さんなりの解釈を加えていくようにして進んでいく。

ここで取り上げられる小佐野さんの戸惑いや発見、葛藤、喜びは、アフリカあるいは違う地域であっても、長期のフィールドワークをした人であれば誰しも経験したことのあるようなものであろうと思われる。私も、ガーナにおける最初のフィールドワークを思い出しながら「そういうこと、あったなあ」と懐かしく思いつつ読ませてもらった。

また、本書では日本人の考える「家族」のあり方(小佐野さん自身も強く意識してきた血縁による家族のつながり、親子関係や介護・育児に関する考え方)にも言及している。なぜ日本では親族との関わりや介護・育児のなかである種の息苦しさを感じてしまうのかについて、小佐野さんが深く考えた経緯や、彼女自身の心情の変化も描かれている。こちらも、日本に暮らす誰もが感じる日常のささやかな葛藤と結び付けて読むことができるのではないかと思う。

さらに本書は、ガーナ人の「家族」との関わり方と、そのなかで生まれる悩みや葛藤にも焦点が当てられている。ガーナの血縁を超えて拡大していく「家族」ならではの悩みや、必ずしも拡大するだけではない「家族」の実態なども細やかに取り上げられており、ガーナの社会や家族観を理解するうえでも貴重な書籍である。

そして本書のもう一つの魅力は、細やかで多彩な表現によって、小佐野さんの目に映ったガーナやそこに暮らす人びとが生き生きと描かれている点にある。本のいたるところに小佐野さんの手書きのイラストが散りばめられており、所々で現地の子どもたちの描いた絵や町で聞こえた歌などが引用されている。文章とイラスト、歌の引用によって、小佐野さんが見て聞いて感じたガーナが実体験できるような感覚を味わえる。章の合間にはガーナ料理のレシピまで付いていて、胃袋まで刺激されるような構成になっている。

本書は学術書のように、ガーナ社会を客観的に捉えようと試みたものではなく、自分自身の経験をもとにガーナの「家族」を描こうとしている。本書の企画が持ち上がった当初から、小佐野さんは自分も登場人物として描かなければならないということを強調していた。当時はその意図が十分に理解できないでいたが、今では、筆者を登場させることによって読者が自分を小佐野さんに重ね合わせることができ、より瑞々しく日本人としての感じ方や葛藤を描きだせたのだと感じる。血縁による関係を軽やかに飛び越えて、日本人さえも迎え入れてくれるガーナの「家族」に興味のある人に紹介したい一冊である。

書誌情報:
出版社:東京外国語大学出版会
発売日:2023/12/12
単行本(ソフトカバー):256ページ
ISBN-13:978-4910635088

アマゾンURL
Amazon.co.jp: ガーナ流 家族のつくり方 世話する・される者たちの生活誌 : 小佐野 アコシヤ 有紀: 本