『カンガ・コレクション』 織本知英子=編

紹介:八塚 春名

タンザニアのギラギラ光る太陽の下、大胆な柄とカラフルな色調のカンガ布は、女性たちの黒い肌を抜群に引き立たせる。そんな布を腰に巻いた女性たちが闊歩するアフリカの町は、実に華やかだ。初めてタンザニアを訪れた時、わたしはその布が欲しくて、どこに売っているのかとフラフラ町をさまよったことを思い出す。到達した布屋街は、声を張り上げる売り手のおばちゃん、これでもない、あれでもないと次から次へと布を広げる買い手のおばちゃん、手提げのビニール袋や水を売り歩く男性、ずんずん通り過ぎていく乗り合いバス、様々な人と物でごった返していた。そして、そんな通りの両脇を、色とりどりのカンガが埋め尽くしていた。その日以来、私はカンガの虜だ。

本書は、主にタンザニアやケニアで、女性によって使われている布「カンガ」を、たっぷりの写真で紹介しているとてもカラフルで楽しい本だ。一見、カンガのアルバム集のようだが、あなどるなかれ。巻末にカンガの詳しい説明も載っている。カンガ (kanga) というと、スワヒリ語では「カンガ布」と「ホロホロ鳥」というふたつの意味ももつ。このまったく共通点のなさそうなふたつが、どうして同じ言葉なのか、そんな謎に対するヒントもこの解説には織り込まれている。

カンガには、スワヒリ語でことば(カンガセイイング)が印刷されている。タンザニアの人びとは、柄とともにこのことばを見ながら、数あるカンガの中から1枚を選ぶ。たとえば「父と母は黄金のように大切なもの」といった教訓や、「あなたを心に思うたび、私は喜びでいっぱいになるの」といった愛の言葉なんかもある。母へのプレゼント、お世話になった人への御礼、大好きな彼女へのお土産。カンガを買う目的に応じて、そこになんと書かれているかを吟味することは、とっても重要なのだ。ことばに注目しながら本書をめくっていくのも、この本の楽しみ方のひとつだ。

最近は日本でも、カンガで作られたかばんや小物、あるいはカンガそのものを販売する店も少なくない。日本ではさすがにカンガを腰に巻いて町を歩くのには抵抗があるかもしれない。そんな人は、テーブルクロスやタペストリー、棚の目隠しとしてカンガを使ってみると、部屋がいっきに明るくなるのでオススメだ。

さて、最後にひとつ、カンガをプレゼントする際の注意点を書いておこう。私の友人ステラは、以前、大好きな彼氏にもらった鮮やかな青色のカンガを持っていた。そのカンガのことばには、ステラのことが大好きな彼の気持ちが、たっぷりと表現されていた。ある日、ステラと私はイースターのお祭り用に一緒に服を仕立てることになり、売店でそれぞれカンガを一枚ずつ購入した。あとは裏地となる布が必要だ。ステラは「裏地に使える布なら持っているから大丈夫、ハルナの分もあるわ」と言ってくれ、翌朝ふたりで、仕立屋へカンガと共にその布を持って行った。仕立屋でステラの持参した袋をあけてびっくり。なんと、裏地用として出された布は、彼氏にもらった青いカンガだった。「コレきっと、ことばで選んだんだと思うんだけど、私、この柄あんまり好きじゃないの」。みなさん、ぜひ、本書でことばと柄、両方をじっくり眺め吟味してから、お気に入りの一枚を探しに出かけてください。そうすれば、ステラの彼氏のような残念な結果には、きっとならないはず!

書誌情報

発行 ポレポレオフィス
出版社: 連合出版 (2006/10)
定価1500円+税
ISBN-10: 4897722128