『少年ケニヤ』(第一巻) 山川惣治=作・画

紹介:庄司 航

『少年ケニヤ』は1951年から現在の産経新聞に連載され、読者に大変な人気を博し、テレビドラマや映画にもなった。

舞台は1941年のケニアで、沿岸都市モンバサで商社を経営する日本人の村上とその息子10歳の少年ワタルは、日英間で戦争が始まるのでケニアにいる日本人はイギリスの捕虜になると聞く。当時のケニアはイギリスの植民地である。ちょうど町から離れたサバンナにいた2人はそのままサバンナの奥に逃げ出す。しかしワタルは父親とはぐれてしまう。その後ワタルは、マサイの老人らの助けを借りながらケニアのサバンナで生活し、父親を探す。父親もまた、息子のワタルを探してイギリス人の役人から逃げながらケニアをさまよう。

ワタルはケニアで生まれ育ち、父親と離れてからは第1巻終了時点で3年間もマサイとともに生活している。大変たくましい少年である。インディ・ジョーンズのように次々に危機に襲われるが、勇敢に対処していく。この冒険譚を読んでアフリカに行ってみたくなった人もいたことだろう。本書は挿絵も実に素晴らしい。細かい線を重ねていくタッチで、それでいて躍動感に満ちている。作者の山川惣治は「絵物語作家」であり、本書も作者自身による挿絵が300枚以上も載っている。

ワタルはライオンやサイなどの野生動物に襲われたり、逆に大蛇やゾウと親交を深めたりもする。巨大なガマカエルなどの架空の生物も登場する。もちろん、大胆な想像を交えたフィクションであるから、現実のケニアがこの本のとおりだと考えるのは無理がある。本作品の発表当時はアフリカやケニアについての情報も少なく、当時の日本人のアフリカイメージに大きな影響を与えた。日本人のアフリカ観の変遷を知るうえでも重要な作品である。現地人のことを「土人」と表記するなど現在では適切でない用語もあるが、発表年代を考慮して読む必要があるだろう。

実は本作は大変長く、第13巻まで続くのだ。私もまだ読んでいない。第1巻終了時点ではワタルはまだ父親には会えていない。父親もまた息子を探して3年間もケニアをさまよっている。古い本なので手に入れるのは簡単でないかもしれないが、ぜひ読んでみてほしい。角川文庫からも出版されており、そちらの方が手に入りやすいだろう(全20巻)。

書誌情報

文庫: 120ページ
出版社: 産業経済新聞社(サンケイ児童文庫)(1953年)
ASIN: B000J6KGCC


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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。