『コンゴ・ジャーニー(上・下)』 レドモンド・オハロン=著

紹介:服部 志帆

「コンゴ川上流にあるテレ湖に、モケレ・ムベンベという恐竜が棲息している」。ピグミーの伝承に誘われてイギリス人の旅行記作家と、その友人であるアメリカ人の動物行動学者が、アフリカ熱帯雨林の奥地を旅する。

「アフリカの森は、電気も水道もなーんにもないでしょう?」。カメルーンの森でピグミーの調査をしている私が、日本でよく言われることである。たしかに、アフリカの森には電気や水道など近代的な設備はない。しかし、うっそうと茂る森には、多種多様な動物や植物が息づいており、それぞれに独自の方法で生命のリズムを奏でている。そしてこのような生き物たちとともに、生を織りなしているのが森の民ピグミーである。

「コンゴ・ジャーニー」は、アフリカの森の自然や人々の暮らしをテンポよく紹介した優れた旅行記であると思う。マラリア、下痢、呪術や狩猟の体験、動物との遭遇など、移り変わる場面をたどりながら、まるでミュージカルを見ているような気分になった。著者レドモンドとその友人との間で絶え間なく繰り広げられる軽やかなコミュニケーションが、そう思わせるのかもしれない。ピグミー研究者である私は、ほとんど宿命的にピグミーの描写に物足りなさを感じざるをえないのであるが、アフリカの森の自然についての細やかな描写には気分が踊った。まぎれもなくオススメのアフリカ本である。