みんなで準備する結婚式(タンザニア)

溝内 克之

「あの〜、そのベンツというのもなんですので、私の車で、というわけにはいきませんか?」と新郎。
「だめだめだめ。ベンツじゃないとだめよ。」とママ・フジョー(「お騒がせママ」と訳せばよいのか)。

新郎とは何を隠そう私。

タンザニアの地を初めて踏みしめてから10年近くがたち、10年前大学4回生だった私も適齢期になり、入籍したのは2007年。紆余曲折あり、タンザニアで披露宴をすることに。

新婦は白いドレスを着て、新郎は黒か白のスーツ。会場は花で飾られます。このあたりは日本と変わらないのですが、大きく違うのは「お涙頂戴」的要素がないこと。おおいに笑い、飲み、食べ、踊ることが結婚式の醍醐味だ。


結婚式に付き物のケーキ
左のケーキは「粉のケーキ」、右は「ンダフ(去勢オスヤギ)のケーキ」。
ケーキ入刀だけではなく、ンダフ入刀もあります。

最近、一部では結婚式は、盛大さが増しているようで、貸切の大きなホールに、数百人のお客が駆けつけます。新郎新婦入場、新郎新婦による親族紹介、ケーキ入刀、シャンパンあけ、合間々々にみんなでのダンス。プロのMCとDJが会場の雰囲気を盛り上げ、時にはお笑い芸人ショーまで登場する。親族の青年とか少年とかが、流行のスワヒリ語音楽を踊りつきで「熱唱」するのには、私は閉口してしまうのですが、会場はヒートアップするばかり。「熱唱」に喜んだおじさん、おばさんたちはお尻をふりふり踊りながら、おひねりを渡しにいきます。

私が2004年からずっとお世話になっているウトー家の庭先で行われたあるパーティーの席で、「お父さん」に披露宴を開催したいと相談。お父さんは大喜び「すぐにみんなに言わなければ」とその場で集まっていた親族に「ヨシが、結婚式をすることを決めたぞ。みんな異存はないね?」と話す。「いやーめでたい」とみんな。「みんなで協力して、いいものにしよう」といってくれる。この家族に受け入れられ本当に良かったと思った瞬間です。

「じゃあ、第1回目のカマティ(委員会)はいつにしようか?」と話は進みます。タンザニアでは一般的に、結婚式やパーティーをする場合、親族・友人たちが「カマティ(委員会)」を組織し、準備を行います。そのパーティーの規模や人間付き合いの広さでカマティのメンバーの数はかわりますが、20人以上が参加します。

日取りは?会場はどこにしようか?MCは?新郎新婦の衣装は?当日の段取りは?新郎新婦の希望を聞き取りながら、すべてをカマティで決めていき、すべての手配をカマティがやります。

もっともカマティの重要な仕事は「ムチャンゴ(寄付)」集め。このようなパーティーは、自己資金もさることながら、参加するみんなの「ムチャンゴ」によって成立するからです。

第1回目のカマティ。
ムチャンゴの話が始まります。
「新郎、○○万シリング」(拍手)
お父さん「私と妻からは○○万シリング」(拍手)
「○○万シリング」「○○万シリングとビール1ケース」(拍手)・・・・。
裕福な人が多いウトー家。みんなの負担にならないようにと自己資金を頑張って出した私の予想以上に寄付総額が集まっていきます。
「規模は小さくて、内輪の・・・」という私と妻の意見は、すでにどこかへいったようで。
「だれだれなら、よろこんで○○シリングは出すよ」という話題まで飛び出します。
第2回カマティ、第3回・・・。札束増えます。

「タンザニア人は結婚式ではなく教育にもっとお金を使うべきだ!!」新聞でこんな話題が記事になるのですから。

当日に近づいたある日、パーティー会場までの移動はどうしようかという話題に。
タンザニアでは、新郎新婦がキリスト教徒の場合、お昼ぐらいから教会で式が行われます。夕方からの披露宴の会場までは車列を組んで移動するのが一般的です。先導車、新郎新婦の車、楽団の車、親族・友人たちが乗り込むミニバスなどが連なり、「プップップ、プププップ」とリズミカルにクラクションを鳴らしながらゆっくりと、街中を練り歩きます。途中では流行のスポットや海岸などにも足を伸ばし、記念撮影をし、パーティーまでの時間を過ごします。

「やっぱりベンツでしょう。丸目ライトの新しいタイプを借りよう!!」と一部のメンバーが盛り上がります。

「あの〜、そのベンツというのもなんですので、私の車で、というわけにはいきませんか?」と私。私の車は中古のマーク㈼。

「だめだめだめ。ベンツじゃないとだめよ。」とママ・フジョー。
「じゃあ、私がベンツの値段を聞いてくるわ!!」と他のメンバー。
パーティーの準備は「お金は足るのだろうか」「みんなの負担にならないのか」といろいろ心配する私と妻の手を離れ、みんなが楽しみながら、話が進みます。

ところで、お父さんには「小さな悩み」があります。
ダルエスサラームで育ち、優秀な成績で高校を卒業し、オーストラリアで「会計学」を学んだ本当の長男レムンゲの結婚式がその悩みの種。私と同世代のレムンゲは、すでに長年付き合った彼女と同居しており、最近かわいい子どももできたのですが、正式な結婚式はまだ。「本人たちでしっかり考えればいい」と理解を示すお父さんですが、本音は式をして欲しいよう。「式はやらないの、お前のためならいくらでも協力するぞ」というレムンゲを説得する親族。レムンゲは「うちの子供が学校にいくころにみんなに協力をお願いするよ」と負けません。

ある親族のおばさん「幸せを分かち合い、協力させて欲しいだけなのに残念」とポツリ。

そうみんな「お節介」をやきたいのです、レムンゲのために。
傷あり、凹みありのマーク㈼ではなく、やっぱりベンツに乗せてあげたいのです。

当日私たちを家まで迎えに来た車は、やっぱりベンツ。
「ヨシ、やっぱりこれよ」と嬉しそうなおばさんたち。
「お節介」という愛情を、しっかり受け止め苦笑いの私と妻。

いま私と妻は、レムンゲのために「お節介」をやける日を楽しみにしています。