「野生動物」とともに生きる未来世代(南アフリカ共和国)

安田 章人

南アフリカ共和国・ヨハネスブルグから南西に約500km。私がふだん訪れるカメルーンと同じアフリカとは思えないほど、きれいに舗装された道をレンタカーで移動し、たどり着いたのは、とあるGame Ranchである。Game Ranchとは、狩猟の対象となる野生動物を囲い込んでいる、いわば、野生動物の牧場のようなところである。Ranch経営者は、敷地をすべてフェンスで囲い、家畜ではなく、野生動物を導入、繁殖させ(もちろん、牛舎のようなものはなく、野放しである)、やってきた狩猟者から料金をとり、野生動物を撃たせる。このようなハンティングビジネスが、特に、私有地が広がる南アフリカ共和国では盛んにおこなわれている。

写真1 フェンスに挟まれたRanchへと続く道

 

私が訪れたこのGame Ranchを経営するのは、A氏という50歳代の男性である。彼は、東欧からの移民の父とアフリカーナー(17世紀中頃にオランダからの入植者を先祖とする白人系南アフリカ人)の母の間に、この場所で生まれた。この土地は、もともとGame ranchではなかった。彼の父は、ここ以外にも12の牧場を経営し、乳牛、山羊などを育てていた。しかし、A氏も牧場経営に携わってきたが、父は、この土地を残し、ほかのすべての牧場を手放してしまった。そこで、A氏は15年前に牧場をあきらめ、Game Ranchを始めた。

A氏のRanchには、B氏というツワナという現地の民族の従業員がいる。彼は、A氏の父の時代から、かれこれ22年間もここで働いている。牧場であった時代には、牛や山羊の世話をしていたが、Game Ranchになると、今度はスプリングボック(南アフリカを代表する偶蹄類)の子供に乳をあげ、野生動物を撃ちに来る狩猟客のガイドを務めるようになった。

Ranch経営者のA氏と、古参の従業員B氏には、それぞれ息子がいる。彼らは、5歳ほど年が離れているが、ともにGame ranchの経営に携わっている。A氏は息子にRanch経営について教え、B氏は息子に野生動物についての知識や客のもてなし方を教えている。

南アフリカでは、A氏のように牧場からGame Ranchに鞍替えするケースが増えているという。フェンスで囲まれたこの土地には、もはやA氏とB氏とともに生きてきた家畜はいない。彼らの息子たちは、「野生動物」と生きていく。

写真2 敷地内にある家へ戻るB氏の息子