近藤史
タンザニアの女性たちが喜ぶ定番のプレゼントといえば、カンガやキテンゲと呼ばれる、カラフルなプリント布だ。すこし厚手の生地に大胆な柄が全面プリントされたキテンゲに対して、カンガはひとまわり小さい薄手の生地に、額縁のような縁取りを備えた模様が印刷され、裾にはスワヒリ語で格言やメッセージが印刷されている。カンガもキテンゲも、縁をかがって、腰や肩に巻き付けて身にまとうのがタンザニア女性の基本の装いだ。あるいは、布生地として仕立屋に持ち込んで、シャツやワンピースをあつらえることもある。
タンザニア中どこへ行ってもカンガとキテンゲは売られている。ダルエスサラームのカンガ・ストリートを筆頭に、大都市でも田舎町でも必ず、それらを扱う問屋や専門店が軒を連ねる界隈がある。専門店のない農村でも、調味料や日用品、雑貨などを売る商店(何でも屋)の一角には必ずカンガとキテンゲのコーナーがある。どの店も、壁や天井にロープを張り、畳んだ布を並べて掛けるのがよくあるディスプレイ方法だ。女性たちは、それを買い物や礼拝のついでにしょっちゅうのぞいては、新作が入荷されていると目ざとくみつける。店員に声をかけて布を広げてもらい、きれいな色だとか、ワンピースを仕立てるのにむいているとか、柄が古くさくて好みじゃないとか、ひとしきり品定めしながらお喋りに花を咲かせる。たいてい買わずに店をでるが、結婚式やクリスマスといった行事を控えているときや、懐が温かいときなどには、そのまま購入することもある。
どこでも売られている定番の贈り物だからこそ、布選びは意外と難しい。センスだけでなく記憶力も試される。はじめて村に滞在してしばらく経った頃に、私は最寄りの町でキテンゲを10枚ほど仕入れて帰ったことがある。ホームステイ先のお母さんとお祖母さんへのプレゼントに1枚ずつ、食事日誌や農作業日誌をつけてくれる女性たちへ調査協力のお礼に7枚、自分用に1枚の勘定だ。まず最初にお母さんに全て見せて、好きな布を1枚選んでもらった。残りの布はどうするのだと聞かれたので、これこれの事情で女性たちに贈ると伝えると、お母さんは再びためつすがめつ布を広げはじめた。「明るい色柄は若い女性へ、落ち着いた色柄は年配の女性へ」とおおまかに分けた後、贈る相手のことを一人ずつ私に確かめては、「この模様は村で見たことがないから、お祖母ちゃんが喜ぶだろう」「その人はパターン柄が好きだからあれが良い」「こっちは誰それへ、いや待て、あの人は同じ模様の色違いをもっていたからそっちと交換しよう」といった具合に熱心に吟味して、全ての布の贈り先を差配してくれた。
ああでもない、こうでもないと小一時間ほど大騒ぎするなかで、お母さんがいちども広げようとしないキテンゲがあった。黒地に黄色い菱形模様の一枚だ。よほどセンスが悪かったのかと、この布のどこが悪いか尋ねてみると、「Rangi yako(あなたの色)」という答えがかえってきた。意訳すれば、「それはあなたに似合う色だから」といったところだ。私は鮮やかな黄色い模様がタンザニア女性たちの褐色の肌に映えると思って選んだのだが、お母さんいわく、漆黒の生地は褐色の肌よりも白い肌を引き立てる、贈られる人よりも贈り主に似合うプレゼントでは誰も喜ぶはずがないという。なるほど、異なる肌色の二人が同席する場では相対的に評価を下げてしまうというわけだ。結局、そのキテンゲは私のものになった(写真1)。

写真1 もらい手のつかなかった黒いキテンゲは私のタンザニア装として大活躍した
タンザニアの女性たちのように私もカラフルで大胆なデザインの布を着こなしたいと思っているのに、いつまでたっても布選びは上達しないが、最近、奥の手を授かった。それは、お洒落上手のお母さんと一緒に村の商店で選ぶというものだ。林業で村の経済が潤い、商店に並ぶ布の品揃えや新作の入荷頻度が上がったため、村でもさまざまなデザインから選べるようになった。購入した布はお母さんと共同で使い、かわりに彼女のもっている布も一緒に使わせてもらう。キテンゲは1枚の布から2幅とれるので、ふたりで1幅ずつ分けあってペアルックも楽しめる。実はこのごろ、ふたりで出かける用事があるたびに、ペアルックで行こうとお母さんから誘われる(写真2)。林業景気を目当てに村外から流入する人が増えた昨今、彼女とお揃いのキテンゲを身にまとうことは、村の有力者である父の縁者だと顕示して身元保証やトラブル避けに役立つというわけだが、私にとってはそうした実用性以上に、タンザニアらしいお洒落を堪能できる嬉しい機会となっている。

写真2 ペアルックで参列した葬送儀礼でのお母さんの装い(中央の女性)。腰に巻いたキテンゲは一緒に選んだ新作、細く折って肩にかけたカンガはお母さんの愛用品






