服部志帆
みなさんは、どんな髪をしていますか?ストレート、くせ毛、天然パーマなど毛質は人それぞれ違っているし、色も黒、茶、金、シルバーとさまざまです。毛質や色は遺伝や年齢によって違ってくるのでしょうが、本来の髪にそれぞれの好みでパーマをかけたり色を入れたり切ったり伸ばしたりと、多様なスタイルを楽しむこともできます。今回のキュン話は、おしゃれだけではない、機能的な髪の毛に関するお話です。
私は2000年11月に初めてカメルーンに行ったのですが(なんともう26年前!)、熱帯雨林で狩猟採集民バカの調査を開始したころ、私の一挙手一投足が森の民の注目の的でした。毎日が動物園状態で、私が何を食べているのか、私がどんな踊りをするのか、標本用の果実や枝を集めて何をしているのか、村の人たちは興味津々。とてもシャイな子どもたちは目が合うと泣き出し、さっきまで笑っていたのに真顔になって逃げだしたりと、なかなか打ち解けてくれず。笑顔で遊びにくるようになるまで半年かかりました。そんな子どもたちも含めてみんなが関心をもったものの一つが、私の髪でした。関心を持つと言っても何かをするわけでもなく、ただただ「長いねえ」「黒いねえ」と言っては眺めるというだけでしたが、私の方は私の方でバカのくりんくりんの髪が気になり始めました。

写真1バカの女性
バカの髪は、非常に縮れが強く毛先が丸くまとまる髪質で球状毛と呼ばれています(写真1)。バカと同じ身体的文化的特徴をもったアカやムブティなど中央アフリカの狩猟採集民の髪も球状毛です。毛先が丸くまとまるため短く見えますが、これを引きのばすとロングヘア―になります。大人は髪にボリュームが出すぎてくると、はさみやかみそりで切ります。男の子は頭の側面をかみそりで親に剃ってもらったり、女の子は髪に花や草をさしておしゃれを楽しみます(写真2)。若者が大切そうにポーチのなかから、櫛と鏡を取り出して髪を整えている姿を見ると、日本と変わらないなぁと思うのですが、球状毛ならではの機能性があります。

写真2 髪にアクセサリーをつけた少女
まず一つは、髪の上に薬をそのまま載せることができること。載せる薬は、たいてい樹皮の粉で、ハチミツ採集が成功する薬や頭痛に効くという薬、悪い霊がやってこない薬など、多種多様な薬を頭にふりかけます。私のようにまっすぐな髪だと、薬はすぐに落ちてしまい、効果を発揮しないかもしれませんが、バカのような球状毛だとスポンジのように薬を吸収し、長時間にわたってその効果を発揮します。二つ目は、髪がクッションとなって頭の上にじかに重いものを載せて運ぶことができること。森で採集した植物やハチミツ、畑で収穫したバナナ、焚き火の燃料となる焚き木や水がたっぷり入ったバケツなど、バカはなんでもかんでも頭に載せて運びます(写真3)。そんなとき、球状毛はしっかり頭をガードしてくれるのです。なんて機能的な髪なのでしょうか。仲の良いバカの女性に髪を触らせてもらうと、それはもうふかふかでとても気持ちいい。知れば知るほど、魅力的に思えてきます。

写真3 頭の上にマットの材料を載せて運ぶ女たち
2018年8月に球状毛のさらなる可能性に触れる出来事がありました。私は1か月ほどの調査でなじみのバカの村を訪れていたのですが、このときは小乾季ということもあって村のバカは森のキャンプへ移動していました。この時期は、たわわに実った野生の果実の収穫期で、バカたちは毎日いそいそと果実の採集に励みます。私は村に到着してすぐキャンプまで移動し、懐かしい面々と再会を果たしました。そして日が暮れぬうちにと、あわててテントの準備を始めました。ポールをのばしテントに通すと、バカの住居と同じドーム型の仮住まいができました。雨除けの屋根をつけているとき、右手の中指に激痛が走りました。
見てみると毛虫が中指の上にのっているではありませんか(写真4)。思わず叫び声が出ました。声に驚いてやってきたケレブンは、毛虫を見るとひどく取り乱し、「早く手から落として!」と叫びました。私が毛虫を落とすのをケレブンは見届けると、毛虫の毛が大量に刺さった私の中指をケレブンの頭にこすりつけるように言いました。私が躊躇していると、「早く私の頭に手を入れて」とたいへんな剣幕で言います。私がケレブンの頭に手をこすりつけさせてもらうと、私の手に毛虫の毛が残っているのを確認して「もっとこすりつけて」と言いました。毛虫の毛はなかなかとれず、ケレブンは何度も頭を突き出して、私は自分の手をケレブンの髪にこすりつけ続けました。何度こすりつけたかわかりませんが、とうとう毛はすべてとれました。ケレブンはほっとした様子で「これで大丈夫」といい、私に満面の笑みを見せました。これが、私がキュンとしたお話です。私はこのとき、球状毛は毛虫の毛抜きにもなることを知り、その機能性の高さに驚嘆するとともに、何度も何度も頭を私の前に突き出してくれたケレブンの姿に心を揺さぶられたのでした。ちなみにその後、私の指は原型をとどめないほどパンパンに腫れあがり、なんと日本に帰ってからもしばらく完全に痛みとかゆみがとれませんでした。ケレブンによる懸命な救助のおかげで、毛虫の毛は取りのぞけましたが、あの毛が手や顔など他の場所についたらさらに大変なことになっていたことでしょう。

写真4 トゥトゥングという毛虫





