生まれ変わるプラスチック(スーダン)

金森 謙輔

「今日、一緒にくるか?見たいって言ってただろ?」

居候先の隣人、カマールさんが呼びに来た。バンパーとグリルのない、エンジンルームがまる見えになったトラックの助手席に、わたしは乗りこんだ。カマールさんは、小さな工場のオーナーだ。彼はこのトラックで、契約している町工場や市場を巡回している。プラスチックを買い取って加工するリサイクル業者なのだ。回収したプラスチックを、自分の工場でペレット*にし、ペレットを加工業者に売る。少し前にわたしはその話を聞き、リサイクルの工程が見たいとお願いしていた。きちんと約束していたわけでもないのに覚えてくれていた。

スーダンの首都ハルツーム。スークシャービーと呼ばれる市場の一角にやってきた。プラスチックの買取業者や、加工工場が立ち並ぶ。大きなずた袋を背負った人たちが、ひっきりなしに往来し、にぎやかに交渉している。価格は材質で変動し、1キロ4ポンド〜12ポンドで買い取られる(約15〜50円、2018年1月)。椅子やテーブルなどの家具、ポリタンクやタバコのフィルムまで、さまざまなプラスチック製品が山積みにされている。売りにくる人は、ウェストピッカーや商店経営者などさまざまだ。

写真1 プラスチックの取引

カマールさんの工場も、スークシャービーにある。取引所の知人たちと軽いおしゃべりをしたあと、自分の工場へ案内してくれた。ビニール袋のようなものが山積みになっている。

彼はポリプロピレン製のラップ材を専門に扱っているらしい。北欧から輸入される材木の包装材や、飲料ケースを運搬するときに巻くラップフィルムが高品質で、自ら出向いて買い取っている。彼の経営する工場は、カマールさんと作業員2人、あわせて3人の社員がいる。あとはサウジアラビア製の粉砕する機械が1台おいてある。1日で100〜300キロくらいのプラスチックを買取り、週に3回収集している。ペレットに加工するのも同じくらいの量だとか。

ラップ材が機械に吸い込まれていく。木の棒でラップ材をぎゅっと押しこみ、かき混ぜながら水を加える。そして機械をぐわんぐわんと回転させる。ラップ材がこま切れになり、機械の中から湯気が立ちのぼる。餅つきを見ているようだ。しばらくすると、こま切れになったラップ材は小さなペレットになって出てくる。カマールさんの仕事はここまでだ。ペレットは別の工場に売られる。彼は、取引先の加工工場へ連れていってくれた。

写真2 山積みのラップ材とペレット作り

取引所の喧騒とはうってかわり、リサイクル工場の作業員たちは黙々とおだやかに仕事をこなしている。ほとんど会話はしない。聞こえてくるのは作業と機械の音だけだ。ペレットを洗浄し乾燥させたら、色とりどりのペレットを混ぜ合わせてドロドロに溶かす。作業員がわたしを見て、にかっと笑いながら指をさす。ドロドロの真っ黒い液体が、勢いよく飛び出し、水で瞬時に冷却されていく。これに再び熱を加え、溶かし、整形して完成だ。もともとラップ材だったペレットは、ここで水道管や電線のカバーに生まれ変わっていた。

写真3 洗浄されるペレット

写真4 噴射され、冷却されるプラスチック

写真5 完成した水道管

「日本人は魚が好きなんだろ?食いにいこう」エンジンがなかなかかからないトラックにふたたび乗りこみ、カマールさんはレストランへわたしを連れていってくれた。ライムをたっぷり絞った、ナイルパーチの丸揚げをつまみながら彼は話す。

「ペットボトルがリサイクルできたら儲かるぞ。今は中国やらドイツやらに運んでるだけなんだ。」

スーダンではペットボトルをリサイクルする施設がまだない。彼の夢はその道のパイオニアになることだ。

*プラスチックを加工しやすいように粒子状にしたもの。