アフリカからの学びを大切にする姿勢(会報第19号[2021年度]巻頭言)

佐藤 秀

2022 年3 月12 日、4年ぶりに搭乗した国際便の機内はこれまでと全く様相を異にしていた。新型コロナ感染症の拡大によって乗客は激減し、ガラガラの機内で横3つのシートを使って贅沢に-エコノミークラスではあるが-休むことができた。ただし、ドバイ空港は多くの人でそれなりに賑わっており、最終目的地への乗り継ぎ便も満席だったのだが。

着陸後、機外に出るなり消毒スプレーを噴射器で全身にぶっかけられた。さらに40℃を超える猛烈な暑さが襲ってくる。私にとって3カ国目のアフリカ、南スーダンの首都ジュバだ。

写真1 ジュバ郊外を流れるナイル川

南スーダンという国は2011 年に独立した世界で最も新しい国であり、独立後も2度の内戦を経験している。2016 年には首都ジュバにおいてキール大統領派とマシャール第一副大統領派が衝突し、街中では銃撃戦が繰り広げられ、それは悲惨な状況だったという。内戦が影響し、外務省のHP で南スーダンの危険情報を見ると、国内ほぼ全域がレベル4「避難勧告」で真っ赤に染まっており、唯一活動可能なジュバ市周辺でレベル3「渡航中止勧告」である。久々のアフリカである以前に、危険レベルが高い国への渡航は初めてだ。

緊張と不安の中、入国審査へと進む。賄賂を要求されそうになったもののさほど問題にはならず、無事に空港を出て迎えの車に乗り込んだ。劣悪な治安の国を想像していたのだが、ジュバ市内の雰囲気はごく普通のありふれた小都市に見えた。当たり前のことではあるが、何も起こらない限り、平和な町なのである。東アフリカの他の国々の首都に見られるような巨大な商業施設や高層ビルはなく、幹線道路は舗装されているが少し幹線道路から外れると砂埃舞う未舗装路となる。

写真2 メイズと小麦粉の生地を薄く伸ばして焼いたキスラ(左下)。モロヘイヤのピーナツペースト和え(中央の緑のもの)も美味しい。

今回の南スーダン渡航は、昨年開発コンサルティング会社に入社して以来、初めての海外出張である。私が団員の1人として従事するのは5年間の農業プロジェクトで、農業を通じて人々の食糧安全保障・生計向上を図るというものだ。内戦直後で治安も経済も安定しないこの国で、人々の生活が少しでも豊かになるように尽力したい。

開発プロジェクトに従事している立場として、心がけていることがある。それはアフリックの「基本姿勢」の1つ目にもある、「アフリカの人びとへの共感にもとづき、アフリカから学ぶ姿勢を大切にする」ことだ。対象地域の開発を目的として、日本が有する技術や知識を移転し、制度や組織の確立、整備などに寄与するのが技術協力であるが、単にノウハウを伝えるだけではなく、開発対象とする地域の人々から学べることが必ずあると私は考えている。ただし、実務者として開発プロジェクトに従事するとなると、人びとと濃密な関係を築き、彼らの本音や価値観を聞き出すことは容易ではない。だからこそ、上記の姿勢が大切なのだと思う。

アフリカから学ぶ姿勢を大切にする、というのは言うは易しであるが、具体的にどういった学びが得られるかと聞かれると、簡単に答えられるものでもない。しかし、そのヒントはアフリック・アフリカの代名詞の1つとも言える「アフリカ便り」に見出せる気がしている。アフリカの人びとへの共感、アフリカからの学びを大切にするという基本姿勢のもと、メンバーが現地で観察した事柄や、さまざまなエピソード、フィールドに馳せる思いが綴られている貴重な情報源だだ。そこには、フィールドに入り込んだからこそ築ける人間関係や視点など、「学びの種」が凝縮されているように思う。今後は開発現場での経験も踏まえ、私自身も様々な学びを皆さんと共有し、アフリック・アフリカのミッションでもある「日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけ」づくりに貢献していきたい。