ゾウ被害にあったスザンナさんの子どもに支援を実施

岩井雪乃

2021年度は、コロナ禍の影響で昨年に引き続き、私は現地に行くことができませんでした。パートナーNGO・SEDEREC(セデレック)のダミアンと連絡を取り合いながら活動を進めました。

ゾウ被害遺児への支援

ゾウに殺されてしまったスザンナさんの家族をコロナ前に訪問しました。母を失ったスザンナさんの遺児への支援を、ようやく実施できました。コロナ前に準備を始めていましたが、コロナでダミアンが遺児への面談に行きづらくなってしまい、なかなか実現できずにいました。2022年4月に、ようやく遺児2人にヤギ2頭ずつを支援することができました。この支援には、2020年にテレビ「世界ナゼそこに?日本人」に出演した際に視聴者の方々からいただいた寄付、Yahoo募金からいただいた寄付を使わせていただきました。寄付者のみなさまに改めて感謝申し上げます。

支援方法をお金ではなくヤギにしたのは、増やすことができるからです。アフリックには継続的に支援できる体制がないので、ヤギを繁殖させて増やして、持続的に活用してもらえることを意図しています。

ヤギの贈呈、左端がダミアン、隣が遺児少年

ミセケ村の電気柵の効果は持続中

2020年に設置された20kmの電気柵は、NGO・Grumeti Fund(近隣で営業する観光ホテルが運営)によって管理されており、ちゃんと機能してゾウが村に侵入しないよう防いでいます。ミセケ村では、昨年は3回ほどゾウが侵入してきましたが、柵が壊されたわけではなく、柵の終点から回り込んで入ってきてしまったそうです。

以前、ケニアのムワルガンジェ・ゾウ保護区を訪問して電気柵の効果について近隣住民に話を聞いた時、彼らは「はじめの5年ほどは効果が高かった。被害がなくなった。しかし、それ以降はゾウが柵に慣れてきて、なんとか工夫して壊して入ってくるようになってしまっている」と話していました。セレンゲティの電気柵も、ゾウが積極的に壊してくるようになる危険性があるので、注意して見守る必要があります。

とはいえ、ゾウ追い払い隊のメンバーたちは、とりあえず毎晩の追い払いから解放されたので、それぞれの生活向上の活動ができるようになりました。以前よりも畑を拡大したり、近くの町で商売を始めたり、遠く離れた町に出稼ぎに行ったりしています。私は、8月に、2年半ぶりにタンザニアに行く計画ですが、村の友人たちの生活は変化していそうです。

大量の草を食べるゾウ(国立公園の中で)

ゾウ被害にあった畑

ゾウ獣害問題は、タンザニアの全国的な問題に

ゾウの農作物被害はもちろんのこと、人が殺される事件は、タンザニアのテレビニュースに取り上げられることが増えています。セレンゲティのみならず、タンザニア南部のセルー猟獣保護区の周辺も、被害の深刻さが増しているようです。

タンザニア政府は、ゾウの被害者数を明らかにしていません。2010年ごろの報告では、年間40-50人が殺されていました(*1)。現在ではもっと増えているのではないかと思います。参考までに、タンザニアと同様にゾウが多く生息しているジンバブエでは、2021年は71人がゾウに殺され、2022年は5月の時点ですでに60人が殺されているそうです(*2)。

野生動物を保護するだけでは、やがて地域住民に害を及ぼすようになる事象は、日本の獣害問題でも起きています。ゾウについても「管理」という考え方が導入されることが必要だと考えています。

テレビニュースで被害を訴える農民女性

*1)Mduma, S., Lobora, A., Foley, C., & Jones, T., 2010, Tanzania Elephant Management Plan 2010–2015, Tanzania Wildlife Research Institute, Arusha, Tanzania.

*2)https://www.africanews.com/2022/05/10/60-zimbabweans-killed-by-elephants-this-year/