田中優花
ガーナの日常はカラフルだ。マーケットのつやつやしたビビッドカラーの野菜や果物、鮮やかな色使いがまぶしいプリント布、おもちゃみたいな色をした椅子やタライ。
色の候補はたくさんあったけれど、このエッセイを書くことになって、まっさきに思い浮かんだのは、「レインボー」だった。欲張りな表現だなあ、と自分で思うし、というかそもそも、「レインボー」って色なのか?という疑問を持たないわけでもないが、それはさておき。
わたしは、ガーナで「ケテ(ケンテ)」と呼ばれる手織り布の研究をしている。ケテは、少なくとも17世紀頃から続く技術を用いながら、職人の手によって織られる手織り布だ。帯状の細い布をつないで、一枚の布に仕立てる。
ガーナには、ケテの産地が複数あって、わたしはヴォルタ州のA町という小さな町で調査をしている。首都アクラから、5, 6時間ほど、でこぼこの悪路とスピーカーから流れる耳が割れるような爆音に耐えながらバスに揺られると、A町に到着する。
A町で調査を開始して、わたしが一番最初に出会った織り手は、アチュと呼ばれていた。アチュは、ヤシの木やマンゴーの大きな木陰の下に織機が構えられた、のんびりした雰囲気の織場で、友達と一緒に布を織っている(写真1)。

写真:アチュの織場のようす。マンゴーの大きな木陰の下に織機が設置されている。
はじめてアチュの織場をたずねたとき、アチュは青地に幾何学模様が入ったカラフルなケテを織っていて、「今織っているのは、女性はスカートとかにするんだ。トップスには、無地のものを使うことが多いんだよ」と説明してくれた。
無地のケテってどんなの?と私がきくと、アチュが手を止めて「見せてあげるよ、ちょっと待ってて」と、彼の自宅の方へと歩いていった。
戻ってきた彼の手元には、ただの無地ではなくて、深いブルーのなかにキラキラのレインボーカラーのラメ糸が織り込まれたケテがあった。(写真2)

写真2:深いブルーのなかにレインボーのラメ糸が織り込まれたケテ
思わず、うわあ、なにこれ素敵!と言ったら、「これはレインボーの糸で織ったんだ。”shine shine (キラキラ)” で、きれいだろ?」と、アチュが少し照れくさそうにしながら答えた。
マンゴーの木が生い茂る木かげの下、しかも犬やニワトリが駆け回るむき出しの砂地の上で、「伝統的」な技術から、こんなにカラフルでポップなものが生み出されているというギャップがまぶしかった。
その昔、ケテは権力者だけに着用が許された格式高い布で、デザインなどが厳格に指定されていた。時代は変わって、今でもプリント布の5倍くらいする高級品だけれど、ケテは誰でも着ることができるし、SNSを通じて、好みの柄と色を指定して、オリジナルのケテを頼むことも一般的だ。長い伝統をもつケテの歴史のなかで、レインボーカラーのラメ糸は、おしゃれが大好きなガーナの人々に選ばれてきたのだろう。
ゆったり続くガーナの伝統に織り込まれる、キラキラ輝くレインボーのラメ糸。木かげで丁寧に織りなされるポップな手仕事を、これからも見つめていきたい。

写真3, 4:執筆者がアチュに織ってもらったケテ、レインボーのラメ糸を織り込んでもらった。






