病気は「悪霊」によって引き起こされる!?(マラウィ)

宮下 遼子

「ハレルヤ!」「ハレルヤ!」
老若男女問わず、説教師に向かって大きな声をはりあげている。マラウィのある教会での説教中の一風景である。

アフリカ諸国で最近流行っているキリスト教の一宗派では、病気は「悪霊」のために引き起こされると考えられている。信者は、ブツブツと一人言を言いながら必死に祈り、「悪霊」を自分の中から追い出すのである。祈りは次第に激しくなり、トランス状態となり、なかには倒れる人もいる。

イエスから偉大な力を授けられたと信じられている説教師に手をかざされ、祈ってもらうことによって「悪霊」を退治することもある。説教師に手をかざされた際にも、倒れる人がいる。倒れた人は、意識を取り戻した後は、何事もなかったかのように立ち上がり、晴れやかに教会を去っていく。

病気を治すことで有名になった説教師のなかには、たくさんの寄付金やプレゼントをもらい、豪勢な生活をしている人がいる。私がマラウィで6ヵ月間調査をしている間に、そんな有名な説教師の一人が、マラウィ大学の講堂に説教をしにくることになった。その日、500人は入る講堂は満員となった。何時間にもわたって、祈っては踊り(この宗派では、バンドなどの演奏にあわせて踊るということも重要視されている。お金がない教会では伝統的な太鼓のリズムにあわせて踊っているが、がんばって寄付金を集めてキーボードを購入している教会が多い。)、祈っては踊りという繰り返しが続いた後、ようやく最後の最後に説教師による病気治しが行われることになった。

一人の女性が呼ばれ、説教師の手が女性の足にかざされると、突然女性は舞台の上を走り始めた。そして彼女は舞台の上にいたコーラス隊の人たちに泣きながら抱きつき、「歩くこともできなかったのに、走れるようになった」と感激して語った。それをテレビカメラがとらえていた。会場にいた人たちは、誰一人疑うことなく「奇跡が起こった!」と叫び、再び歌い踊りだした。

この女性に奇跡が起こった後、車椅子に乗った人たちや、松葉杖をついた人たちが、自分たちにも奇跡を起こしてもらおうと舞台の前に集まってきた。説教師が彼らに手をかざして祈った後、周りのスタッフが、彼らを車椅子から立たせたり、松葉杖をとって歩かせていた。それを見てまた会場中の人たちが「立った!歩いた!ミラクルだ!」と拍手喝采をして踊っていた。車椅子から立たせたり、歩かせていたのは私にはとても強引に見え、かわいそうで涙がでてきそうだったが、そんな気分になっているのは、どうやら私一人であったようだ。その後、多くの寄付金が会場中の人から集められ、説教師は高級車で大学を去っていった。

後日ホームステイ先でテレビを見ていた際、マラウィ大学で起こされた奇跡の一部が放映された。ホームステイ先の人に「あなたこれを実際に見たんでしょう!このミラクルを見たのでしょ!」と興奮しながら話しかけられたが、色眼鏡のかかっている私はなんと答えていいか言葉に窮してしまった。

そもそも、このキリスト教の宗派は欧米から入ってきたものであり、決してアフリカ諸国で作り出されたのではない。近代的な医療設備があまり整っておらず、薬も手に入りにくいアフリカ諸国だから起こる現象だとは言えないのである。また、アフリカ諸国において、貧困層の人びとの間でのみ流行っているのではなく、病気になった際に近代医療設備での治療が受けられるような富裕層の人びとの間でも流行っているのである。

日本に住む私たちの間では、キリスト教がそれほど普及していないこともあって、なんとやましい宗派がキリスト教には存在するのだと思う人がいるかもしれない。しかし、近代的な医療設備が整った現代の日本においても、不治の病は存在し、病気治しを大きな特色とする宗教団体や、祈祷師などが今なお人気を集めているのも現実であろう。

病気という人の弱みにつけこんで金稼ぎをする人たちに対して大きな疑念を抱いてしまう。しかし同時に、祈りのおかげで病気が治ったと思い幸せに生きている人がいるのを見ると、何が良いのか悪いのかという判断に迷ってしまう。