紹介:八塚春名
日本のスーパーで、バナナを見ない日はあるだろうか?わたしが日常的に通うスーパーには、暑かろうが寒かろうが、一年中、フィリピンやエクアドルから来たバナナがずらりと並んでいる。100円程度で買える日だってあり、「安く身近なフルーツ」の代表格だ。しかし、この身近なバナナについて、詳しく理解をしている人はいったいどのくらいいるのだろう?バナナにはどんな種類があるのか、どんなふうに実をつけるのか、いつどのように世界中に広がり、どこでどんな料理になって食べられているのか。みなさん、答えられますか?
『バナナ(知りたい食べたい熱帯の作物)』は、カテゴリーとしては絵本である。しかし、あなどるなかれ。絵本とはいえ情報満載だ。逆にいうと、絵本と聞いて手を延ばす子どもたちには、ちょっと難しいかもしれないと思ってしまうほどだ。なぜなら、この本を監修する佐藤靖明さんは、東アフリカのウガンダで20年以上にわたりバナナとバナナを利用する人たちのもとでフィールドワークをしてきた人だからだ。わたしは佐藤さんを、敬意をこめて「バナナの佐藤さん」と呼んでいる。そのくらい、バナナのプロなのだ。とくに、アフリカのバナナのプロなのだ。ただし本書のなかでは、地域に偏りが出ないよう、アフリカに限らずアジアやオセアニア、ラテンアメリカなど、多様な地域のバナナ情報がまんべんなく散りばめられている。もちろんアフリカの豊かなバナナ料理の写真や、ウガンダにある遺伝子組み換えバナナの実験圃場の情報など、バナナの佐藤さんならではの記載もみられる。
かつて、鶴見良行著『バナナと日本人』を読み、バナナ農場における労働者の待遇の悪さや農薬による健康被害に関心を持ったことのある人も少なくはないだろう。最近も石井正子著『甘いバナナの苦い現実』が出版されるなど、『バナナと日本人』から40年近くを経てもバナナ栽培をめぐっては、いまだにたくさんの問題が指摘されている。そこで、本書を手にとってバナナについて理解を深めたうえで、スーパーで目にするバナナがどんな道をとおってやって来るのか、子どもたちと一緒に考えてみるのはどうだろう?おいしいバナナをめぐる世界の豊かな文化と、グローバル経済下での格差の問題を考えるための最初の一歩として、おすすめしたい一冊だ。
そうそう、アフリクックでもバナナを使ったアフリカ料理が紹介されている。バナナはフルーツ、デザート、と思っている日本の人たちの食べ方とは大きく違うバナナ料理ばかりだ。本書と一緒にクックでバナナ料理をチェックすることもお忘れなく!
参考:鶴見良行(1982)『バナナと日本人』岩波新書.
石井正子(2020)『甘いバナナの苦い現実』コモンズ.
書誌情報
『バナナ(知りたい食べたい熱帯の作物)』
佐藤靖明(監修)・山福朱実(絵と造形)
2021年
農山漁村文化協会 https://www.ruralnet.or.jp/