『おいしいケーキはミステリー!?』 アレグザンダー・マコール・スミス=作 もりうちすみこ=訳 木村いこ=絵

紹介:丸山 淳子

公平であることは、いつもそんなに簡単なわけじゃない。たとえば、学校のみんなが楽しみにしていたお菓子が消えたとき。学校のみんながお菓子好きの友だちを犯人として疑いはじめたとき。そんなときに、みんなからちょっと離れて、この「事件」を公平な目で見てみようとすることは、やっぱり勇気のいることだ。

だけど、本書の主人公、ボツワナにうまれたプレシャスは、この「事件」を曇りのない目で冷静に見ることできる少女だ。ミステリーというタイトルから想像するよりも、ずっと穏やかでユーモアのあふれる展開だけど、彼女は、少しずつ、でも着実に「事件」の真相を紐解いていく。そして、そのあとに続く、調和のとれたさわやかな結末を読み終えると、きっとプレシャスのように公平に物事を見る勇気が湧いてくるはずだ。

実はこの絵本、ボツワナを舞台にした小説のなかで、おそらく世界で一番よく知られている「No.1レディース探偵社シリーズ(http://afric-africa.vis.ne.jp/books/books020.htm)」の主人公、探偵ミス・ラモツエの子どもの頃のお話しだ。ドラマ化もされたこのシリーズを知っている人なら、大人でも間違いなく気になる絵本だ。あるいはこの絵本を先に手にした子どもたちは、すこし大きくなってから、プレシャスが成長してどんな活躍をするのか、小説のシリーズを読み進めることになるだろう。この主人公には、子どもも大人も、年齢を超えて、必ずや魅了されてしまう。

おおくの人が「アフリカらしさ」としてイメージするようなものは、この絵本にはあまり出てこない。だけど、大きな木の下で相談するプレシャスたちを描いた絵は、ボツワナでよく見かける、小学校の和やかな光景を思い出させる。プレシャスのような子どもたちが、まだ子どものうちから、自分のまわりにいる人たちにとても誠実に向き合っている姿を、そしてそんな子どもたちを、自信をもって育てている大人たちを、私は何度もボツワナで目にしてきた。ボツワナで培われてきた公平さや誠実さ、知恵や勇気が存分に詰まっていているこの物語は、その意味で、とても「アフリカらしい」気がしている。

書誌情報

出版社: あかね書房 (2013/07)
単行本: 117ページ
定価: 本体1,200円+税
ISBN978-4-251-04414-3