『生きているシーラカンスに会いたい!』岩田雅光著

紹介:八塚春名

いつだったか、タンザニアにフィールドワークに行ったとき、福島の水族館で働く人たちが、ちょうど今タンザニアまでシーラカンスを探しにきている、と聞いた。シーラカンスについてほとんど知識をもたなかったわたしは、生きたシーラカンスがいること自体にびっくりした。そして、アフリカの海で生まれたシーラカンスが福島の水族館「アクアマリンふくしま」へわたったとも聞いた。それ以来わたしは、いまだ訪れたことはないけれど、アクアマリンふくしまに勝手に親近感を抱いている。東日本大震災のさいには、アクアマリンふくしまがひどく被災したとテレビだったか人づてだったかで知り、シーラカンスはだいじょうぶだろうか、タンザニアに来た人たちは無事だろうかと、心配もした。この本は、生き物大好き少年だった筆者の岩田さんが、アクアマリンふくしまに勤めシーラカンスの研究に奮闘し、福島にシーラカンスを連れていくまでの記録である。

「生きた化石」と呼ばれるシーラカンスは、現在アフリカに1種とインドネシアに1種だけが生き残っている。1938年、南アフリカで初めてシーラカンスが発見された。それ以降、1997年にインドネシアで発見されるまで、シーラカンスの生息地はアフリカ大陸の東、インド洋に浮かぶコモロ周辺だと考えられてきた。岩田さんは2000年に開館したアクアマリンふくしまで、シーラカンスを調査する「グリーンアイ・プロジェクト*」のメンバーになった。そして南アフリカ、タンザニア、コモロといったアフリカの国々やインドネシアに赴き、世界中の研究者らとシーラカンスに関する共同研究をおこなってきた。岩田さんの研究の根底には、水深150メートルという深海に暮らす謎多きシーラカンスを見たい!という生き物への強い探求心がある。また、岩田さんが大きなリスペクトを寄せる他国の研究者や現地の人びとは、お世辞にも順風満帆とはいえないシーラカンス調査をしっかりとサポートしてくれる。それゆえか、この本には「わくわく」しかない。ハプニングだらけの研究も、わくわくする気持ちと、心強い人たちがそろえば、それはいつしか大発見へとつながっていく。ああ、やっぱりわくわくする。生き物好きな子どもたちはもちろんのこと、「シーラカンスって化石?」と思っているおとなたちにも読んでほしい。そして、自由にのびのびと旅ができる世界に戻ったら、シーラカンスを見に福島まで足を運んでほしい。わたしもぜひとも訪れたい。

さて、ここからは番外編。実はこの本の編集を担当された根本知世さんは、タンザニア生まれ、タンザニア育ち。本に登場する、タンザニアで岩田さんを力強くサポートする「根本さん」は、知世さんのお父さん。『生きているシーラカンスに会いたい!』は、アフリカのシーラカンスが、岩田さんを介して、父と娘をつないでいる、そんな本でもある。

*グリーンアイ・プロジェクトは、緑色に輝くシーラカンスの目の色から名付けられた。
参考:アクアマリンふくしま「進化を物語る生きた化石

書誌情報

出版社 : 新日本出版社
発行  : 2019年6月28日
価格  : 1,650円(税込)
判型 :単行本(ソフトカバー)  160ページ
ISBN-13 : 978-4406063647