庄司航
ゴリラ研究者の山極寿一氏による絵本。作者が自身のアフリカ熱帯雨林での調査経験にもとづいて、ゴリラの生態を読者に生き生きと語りかけてくれる。
ゴリラが自分の胸を両手で太鼓のように叩く動作は「ドラミング」と呼ばれている。ゴリラがドラミングをおこなうことは、今から百年以上前にヨーロッパ人がアフリカでゴリラを発見した頃からよく知られていた。以前はゴリラのドラミングは戦いの宣言のためだと考えられていたという。しかし作者は実際にゴリラを観察し、時にはゴリラに顔をのぞきこまれたりしながら、ゴリラのドラミングがコミュニケーションの手段であることに気づく。ゴリラは霊長類の中でも類人猿と呼ばれるグループに属し、人間にとても近い仲間である。実際、作者が紹介するゴリラの振る舞いは、まさに人間と見紛うようだ。子供のゴリラが電車ごっこのように並んでくねくねと歩いたり、作者に向かって「グフーム」と言って挨拶したり、ゴリラ同士の喧嘩を他のゴリラが仲裁したり、夜は木の枝でベッドを作って眠る。ゴリラが恐ろしい猛獣だと思っていた人は、イメージの違いに驚くだろう。私も野生のゴリラを見たことはないが、この本を読んでゴリラに会いにアフリカの熱帯雨林に出かけたくなった。
ゴリラの絵もこの本の大きな魅力だ。絵を描いた阿部知暁氏はゴリラが大好きで、ゴリラに会うためにアフリカの熱帯雨林や世界各地の動物園を訪れ、ゴリラの絵ばかり描いているというユニークな人物である。まるでゴッホのような力強い筆のタッチの絵はゴリラを表現するのにぴったりだ。この絵本は「たくさんのふしぎ傑作集」というシリーズのひとつで、絵本といっても読むところはたくさんあり、子供だけでなく、大人が読んでも楽しめる内容になっている。何度も繰り返し読んで味わいたい、子供にも大人にもおすすめの一冊である。
書籍情報
出版社:福音館書店
定価:本体1,300円+税
発行:2015年 9月
判型 :26×20cm・40頁
ISBN : 978-4834081879