氾濫原に生きる人々

岡本雅博

はじめに

アフリカ概論]まず、連続講座の初回ということなので、アフリカの概略をつかんでもらうために、アフリカの地図を示しアフリカに存在する国家の数や民族・言語の数などについて説明しました。つぎにアフリカの植生図をもちいてアフリカの生態環境が多様であることを述べ、さらに熱帯雨林のピグミー、サバンナの牧畜民、乾燥地のブッシュマンなどの写真を見てもらい、ひとくちにアフリカといっても異なる環境のなかで、さまざまな文化や生活様式をもった人々が暮らしていることを話しました。

氾濫原とは?

今年の日本は例年になく台風が猛威をふるった年でした。この講義の直前にも台風23号が近畿地方に上陸し、洪水や土砂崩れなどによる甚大な被害がでました。このような、日本では台風にともなう洪水が深刻な問題となっていることを話しの発端とし、アフリカには「氾濫原」が各地に分布していることを説明しました。氾濫原とは、毎年必ず洪水によって冠水する平原のことをいいます。そして、そのような氾濫原の多くは人の居住域となっていることを話しました。

氾濫原の豊かさ

私が調査を続けているザンベジ川氾濫原の地図(南部アフリカの内陸国ザンビア共和国の西部州に位置します)、洪水期の写真と洪水期でないときの写真などを示し、ザンベジ川氾濫原とはどのような環境下にあるのかについてのイメージをもってもらいました。また、この氾濫原には、ロジと呼ばれる民族が、長年にわたって住んでいることなど、地域の社会・歴史的な説明をしました。ロジの人々は、氾濫原という生態環境を巧みに利用しながら、農業(トウモロコシ栽培)、牧畜(牛の飼養)、漁撈などさまざまな生計活動を複合的に営んでいます。彼らは、氾濫原にダムをつくったり、ザンベジ川の氾濫を防止するための堤防を設けたりすることはまったくしません。このような、自然に強く依存して暮らしをなりたたせている生活のメカニズムを知ってもらうために、氾濫原の地形と生計活動の関係を示した模式図や写真を用いて、氾濫原で生活していくこととはどのようなものなのかについて説明しました。とくに、人が暮らしていくうえで、氾濫原は「豊かな」生態環境であることを強調しました。

氾濫原で生きるには

しかし、氾濫原の「豊かさ」を享受するためには、氾濫原で生活していくための生活技術を身につける必要があります。たとえば、丸木舟をあやつることができないと氾濫原では生きていきません。また、洪水期の数ヶ月間、人々は氾濫原の外に避難するか、そうでなければ冠水した氾濫原の村で過ごさなければなりません。水を恐れないことも、氾濫原で生きていくうえでの大切な条件となっています。さらに、氾濫原一帯が洪水に浸かる時期には、牛も氾濫原の外に移動させる必要があります。人々が洪水とどのようにつきあっているのかについて知ってもらうために、丸木舟を漕ぐ姿,洪水時の村における生活のようす、牛群がザンベジ川を泳いで渡るシーンなどを撮影したビデオ(約10分)を上映しました。

まとめ

最後に、ザンベジ川氾濫原に暮らすロジの人々にとっての洪水がもつ意味についてのまとめをし、さらに日本とアフリカにおける河川や洪水と人との関わりかたの違いについて問題を提起し、講義を終えました。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。