『男も女もみんなフェミニストでなきゃ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著 くぼたのぞみ訳

紹介:八塚 春名

 今月のおすすめ本もまた、アディーチェにしよう。アディーチェが2012年にTED×Eustonでおこなったスピーチ”We should all be feminists”を、アディーチェ作品の多くを和訳してきたくぼたのぞみさんが日本語訳されたものが本書である。もとがスピーチなので、短く、すぐに読み終わる。でもやっぱり、さすがはアディーチェ。彼女の言葉に共感してしまうのは、わたしが女性だから、ではないはず。これからの時代を担う若い女の子たちに、いや、すべての若者に、ぜひ読んでほしい。

 ナイジェリアの大都市ラゴスの駐車場で、駐車スペースを見つけてくれた若者にチップを渡す。するとその若者は、チップを渡してくれた女性(アディーチェ)ではなく、彼女が一緒にいた男性に向かって「サンキュー」とお礼をいった。アメリカで男性から管理職を引き継いだ女性が、前任だった敏腕男性と同様のことをしたら、「女らしい手加減」を期待していたのにと従業員が不満を訴えた。子どものおむつを替えた夫にたいして「ありがとう」と妻がいう。‥‥‥ああ、なんかその光景、わかる、見たことある。この本に出てくるたくさんの事例は、わたしたちの日常にふつうに転がっている光景だ。

 本書を読みながら、わたしはふたつの出来事を思い出した。ひとつ目は、数年前にある男子学生に言われたことだ。「アフリカ地域研究の初回の授業で、部屋に入ってきた先生を見たとき、この先生、アフリカにほとんど行かないだろうし、現地のことをあまり知らないだろうと思って、授業をとるのをよそうかと思った。」 
彼は直後に、「先生の話を聞いたら、そうじゃないことがよくわかった」と付け加えたが、わたしが女性で、どちらかといえば小柄で、アフリカっぽい服を着ていたわけでも、日に焼けていたわけでもなく、彼が思い描くアフリカ研究者の「外見」ではなかったらしい。その学生は「そうじゃないことがよくわかった」という後者の部分を強調してわたしに伝えてくれたわけだが、でもやはり、わたしとしては、なんだか複雑な気分だった。

 ふたつ目は、レジナのことだ。2007年に10か月タンザニアに滞在していたとき、毎日一緒にいた女の子がレジナだ。よく笑い、よくしゃべる、明るい女の子。そのころ、彼女はずっとこういっていた。「わたしは結婚したくない。だって、男性は結婚したら奥さんを殴るから。わたしは殴られたくない。」彼女の母親はシングルマザーとして4人の子どもを育てた。彼女はその末っ子だった。

 わたしの帰国後、レジナは町で買った粉せっけんを小さな袋詰めにして、村で売り歩く小商いを始めた。少しずつ商売の規模を広げ、今では立派な売店のオーナーになった。
 
 そして彼女は昨年、バスの車掌をしている男性と結婚した。レジナが彼と付き合いだして、もう5年以上になる。結婚より先に子どもも生まれた。「殴られるから結婚したくない」と語っていた彼女は、自分をリスペクトしてくれる男性を見つけ、互いに仕事をもち、地に足をしっかりつけて暮らしている。

 ジェンダーは、世界のいたるところで問題になっていて、ジェンダー平等は、国際社会が掲げる目標になっている。女性たちが、いや、女性に限らずすべての人びとが、自分が望むように、豊かに生きていくためには、すべての人が個人として対等であり、互いを尊重し、助け合わなければいけない。女性だから、とか、男性だから、とかではなくて。アディーチェは本書の最後に、「男性であれ、女性であれ、「そう、ジェンダーについては今日だって問題があるよね、だから改善しなきゃね、もっと良くしなきゃ」という人、それがフェミニストだ」といっている。そして、「女も男も、私たち「みんな」で良くしなければいけない」と、この本を(スピーチを)締めくくっている。

もとのスピーチはTEDトークで視聴できます。本書とあわせてこちらもぜひ!
TEDxEuston 2012 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ「男も女もみんなフェミニストじゃなきゃ」

単行本(ソフトカバー): 100ページ
出版社: 河出書房新社
言語: 日本語
ISBN-10: 4309207278
ISBN-13: 978-4309207278
発売日: 2017/4/19