11月8日(水)
公開講座の「人・自然・社会」というテーマを考えるうえで、近代農業とは異なるかたちでつくりあげられ、受け継がれてきているタンザニア南部の「在来農業」をトピックとしました。
「在来農業」を長年変化しない伝統的農業でもなく、かといって近代農業には必ずしもとりこまれていない、その土地の風土に適合した農業として定義し、マテンゴと呼ばれる人びとが営むンゴロ農業(マテンゴ・ピット・システム)というユニークな農業について、それがどのような歴史的経緯、自然環境、社会的条件のもとで生みだされたかということを中心に説明しました。
マテンゴの人びとは100年以上前に、周辺民族からの攻撃をふせぐために急峻な山地の岩山に身をかくし、この農業をつくりだしたといわれています。タンザニアのほかの地域でみられる、一般的な焼畑農業や畝たて農業とは異なり、彼/女らは畑となる土地の草を刈った後、焼かずに、格子状にならべて土をかぶせます。そのため、山の斜面はパッチワーク状の景観をつくりあげます。土をかぶせたときにつくられる無数の穴が、雨期の豪雨による土壌侵食を軽減し、うめこまれた草は緑肥の役割をもつので、この農業がこれまで比較的安定した食糧生産をになってきたことについて述べました。
11月15日(水)
第二回目は前回の内容をふまえ、このように地域のなかで受け継がれてきた「在来農業」が、近年、タンザニアをとりまく社会経済的条件が急転するなかで、どのように変容してきたかということについて述べました。
ンゴロ農業は彼/女らにとって重要な換金作物であるコーヒーの栽培管理と密接に関係しています。環境に適合した農業であったンゴロ農業ですが、人口増加と長年の連作を背景に土地が疲弊してきており、人びとはコーヒーからの収入で化学肥料を購入し、部分的にンゴロ畑へと利用してきました。しかし政府の方針が変化し、市場経済化がすすむにつれて、その影響がコーヒーの価格低下や化学肥料の価格高騰というかたちで現れ、化学肥料を入手することが以前ほど容易ではなくなってきています。そしてそれは結果として、この地域の食糧生産に大きな影響を与えるようになっています。そのため人びとは化学肥料なしでも十分な収穫が得られる新しい土地を求めて移住するようになりました。移住先では、これまで微妙なバランスのうえになりたっていた農業システムがだんだんと崩れ始め、それが現時点では自然環境や人びとの生活にさまざまなかたちで影響をあたえつつあることを述べました。
最後に、このような状況をふまえて実施されていた農村開発の活動に、青年海外協力隊員としてどのように取り組んでいたかを紹介し、話を終えました。