「森と村のはざま−アフリカ熱帯林の人々」

松浦直毅

「いまづ環境学公開講座2006 −人・自然・社会−」での授業について報告いたします。授業は、「森と村のはざま−アフリカ熱帯林の人々」というタイトルで、2006年10月25日 (水)、11月2日 (木) の2回にわたっておこないました。

10月25日(水)熱帯雨林の人々の生活

アフリカの熱帯林の分布、気候、植生について簡単に説明したあと、その森で暮らすピグミー系狩猟採集民の話をしました。まず、ピグミーの身体的、社会的特徴や分布について述べ、次にピグミーの生業活動を取り上げました。ここでは、ピグミーが狩猟、採集、漁労をどのようにおこない、どんな獲物を得ているか、それをどのように消費しているかなどを、さまざまな動物や植物の写真を紹介しながら説明しました。さらに、遊動生活という生活様式を取り上げ、ピグミーの生活が熱帯林という環境と強く結びついていることを述べました。

前半では森に強く依存した生活について話しましたが、後半では現在はそのような生活が変化してきていることを紹介しました。ピグミーの生活は、狩猟採集から農耕へ、遊動から定住へと変わってきており、近代化、グローバル化とも決して無縁ではないことを述べました。「森と村のはざま」と題した理由は、現在のピグミーの生活の場は、森と村の間にあるといえる状況だからです。

授業のまとめとして、ピグミーは、世界とのつながりの中で変わりながら、私たちと同じ世界、同じ時間を生きている人々であることを述べました。そして、自分たちを取り巻く自然環境や社会状況をうまく利用しながら暮らすピグミーの生活から何か学べることがあるか、いう質問を投げかけて授業を終えました。

11月2日(木)熱帯雨林の人々の社会

まず、私が調査をしているガボンの人口、言語、宗教、民族構成について述べ、民族という概念について簡単に説明したあと、ピグミーと農耕民の関係について話しました。両者は相互に依存し合いつつ、お互いを理解しながら共生していることを説明しました。

次に、ピグミーの社会や文化の特徴について話しました。森の資源を利用し、森を生活の場とするピグミーは、社会や文化においても森に深く根ざしていることを説明しました。ここでは、歌と踊り、医療、遊びなどの映像を紹介しました。

前半では、森と強く結びついた社会について話しましたが、後半では、ピグミー独自の社会や文化が変化してきていることを説明しました。私が調査をしているガボンのバボンゴ・ピグミーのように、ピグミーと農耕民の差異が小さくなっていたり、ピグミーが町の人々の交流を強め、町に進出していたりする例を紹介しました。「森と村のはざま」と題したもうひとつの理由は、現在のピグミーは、森に根ざした人々と村に暮らす人々の間ともいえる人々だからです。

授業のまとめとして、ピグミーは、農耕民や町の人々とのつながりの中で、社会を柔軟に変えながら生きている人々であることを述べました。そして、他者とのつながりを保ち、柔軟に利用しながら生活するピグミーの社会から何か学べることがあるか、という質問を投げかけて授業を終えました。

まとめ

2回の授業を通じて私が伝えたかったことは、ピグミーは、物語の中の人物などではなく、私たちと同じように、主体性をもって現実を生きている人々であるということでした。生徒が提出した授業レポートには、「彼らは遅れている」、「かわいそうだ」、「理解できない」ではなく、「〜が面白かった」、「〜が興味深かった」という感想が多くありました。また、まとめの言葉として、「ピグミーは、私たちと同じ時間、同じ世界を生きている人々」という一文を引用している人が多くいました。2回の授業を通じて、ピグミーを少しでも身近に感じてもらえたのなら幸いです。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。