ヘアサロンからみる都市のアフリカ女性

織田雪世

前回までの連続講義では、環境保護にかかわるものが多かったと思います。しかし今回は番外編ということで、かなり自由に講義させていただきました。

1.はじめに

連続講義の副題は「人と自然の関係性を問う」ですが、今回はすこしアプローチを変えて、人が自分の身体(髪)という「自然」とどうつきあっているかを考えることにしました。これまでの講義とは違い、とりあげたのはアフリカの都市部。西アフリカ・ガーナの首都アクラで暮らす女性たちの髪型事情から、現代アフリカの一側面を学んでもらおうという趣旨です。

 

2.ガーナ女性とパーマ

まず市街図を見せ、街のるところにヘアサロン(以下サロン)があることを紹介しました。その数は、生徒たちを驚かすのに十分だったようです。サロンのほとんどはここ10年間にできたもので、客と美容師はいずれも若い女性が中心です。サロンがここまで増えた要因に、成人女性の大半がストレート・パーマの一種(以下パーマ)をかけるようになったことがあります。ガーナ人の髪はコイル状に巻きながら伸びるのですが、パーマはその髪をやわらかく扱いやすくし、髪型の幅を大きく拡げて人気をえました。これに人工のつけ毛を足せば、髪型のヴァリエーションは無限です。私がパワーポイントで大量の髪型写真を見せると、その多彩さに教室のあちこちでどよめきが起きました。

このように髪型文化を花開かせたパーマですが、便利でおしゃれとされる一方、一度かけるとなかなかやめられないという特徴をもっています。しかもパーマ・ヘアは洗髪後の手間がかかるため、家では洗うことができません。サロンが急増したのは、女性が毎週サロンへ通い、髪を洗ってもらうようになったためなのです。

このパーマ、もとはといえばアフリカ系アメリカ人の間で、髪質の違いを「劣等性」の目印とみなして差別されるのを避けようとして、始められたものです。ガーナで一般化したのは1990年代で、その陰には同国の社会経済変化と、パーマ剤を製造・販売する外国資本の会社による、強力なキャンペーンがありました。消費文化のグローバル化がガーナ女性のおしゃれごころと結びついて、これほど多くのサロンが誕生したのです。

3.サロンで働く女性たち

つぎに、サロンで働く女性たちについて紹介しました。美容師をめざしている女性は、今回の講義を聴いてくれた生徒たちより、ほんの少し年上です。彼女らは、見習としてサロンで働きつつ技術を覚えたのち、ワーカーとして人に雇われたり、自宅で少しずつ営業したりしながらお金をため、やがて自分の店を持つようになります。

ガーナでは社会的な理由から、男女をとわず「自分でお金を稼ぐ」ことが重要な意味をもっています。しかし都市女性の多くは、仕事と家事の両立や、学校は出たものの就職口がない、といった問題に直面しているのが実情です。こうしたなか美容師の仕事は、家事と両立させやすいうえ「手に職をつけている」「きれいな髪型をつくる、おしゃれな仕事」というイメージを持たれはじめており、人気があります。女性たちは、パーマという新しい技術によって生まれた経済機会をすばやく利用し、自分の職業としているのです。

一方で最近は、サロンが増えすぎて競争が激しくなり、美容師の仕事だけで食べていくのはだんだん難しくなっています。「学校は出たものの仕事がない、けれども稼がなくてはならない」という女性たちは、これから一体どうしていくのでしょうか。

4.おわりに

最後に、今回の講義をまとめました。そして「グローバル化が進むなか、ガーナ都市部の女性たちはパーマをかけ、サロンに通いつづけるなど、外国の大企業に「踊らされている」ようにみえます。しかし一方で、パーマを使ってさまざまなおしゃれを楽しみ、サロンという場から人間関係を築いたり、サロンへの需要をすばやくとらえて美容師の仕事で生計をたてたりするなど、そこには、いわば自分で「踊っている」、という側面もあるのかもしれません。皆さんはどう思われますか」と投げかけて、講義をおえました。

当日は講師自身が髪につけ毛を編みこんだ姿で登場し、教室を回ってそれを見せたり、髪結いに使う糸や雑誌を回覧したりと、アフリカ都市の髪型文化を身近に感じてもらうように工夫しました。「髪と人とのつきあいかた」という親しみやすい話から、現代アフリカ都市のさまざまな側面のひとつを知ってもらえたのではないかと思います。こちらに、受講した生徒たちの感想・意見をご紹介します。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。