人類学・地域研究への招待

岡本雅博

はじめに

まず自己紹介として、「人類学」という言葉にはじめて出会った頃のことを話しました。私が人類学に興味をもつようになったのは、高校時代に読んだ一編の小説をとおしてでした。その小説の主人公である高校生が進路選択で悩んだ結果、選んだのが人類学でした。高校を卒業後、私も人類学や民俗学を学び、日本の農村を歩くようになりました。農村とは無縁な都会で育った私にとって、農村での体験がいかに楽しく、また新鮮なものであったか、さらにその後、アフリカ研究を志すようになった経緯を話しました。

人類学とフィールドワーク

世界のあらゆるところで人間は暮らし、社会をつくり、文化をもっています。そして、それぞれの文化はとてつもなく多様です。そうした文化の多様な広がりに着目し、「人間とはいったいどのような生き物なのであろうか」ということを考える学問が、人類学(文化人類学)です。そして、人類学をすすめるうえで欠くことができないのが、現地調査、すなわちフィールドワークです。ある文化を理解するためには、実際にその場所に身を置き、自分の目で見て、話しを聞き、行動をともにし、さらには全身で感じ取ることが大切です。フィールドワークをすすめるうえで重要な点として、(1)長期滞在、(2)現地語の習得、(3)現地の人々との信頼関係の構築、(4)現地社会の一員として受け入れられること、の4点があることを説明しました。

私のフィールドワーク

フィールドワークの具体的な例として、私が着手しているザンベジ川氾濫原(ザンビア西部州)での調査について紹介しました。私は、ザンベジ川氾濫原の中ほどに位置する人口50人ほどの小さな村で、村の人たちと一緒に生活しながら、洪水とともに生きる彼らの暮らしぶりについて調べています。スライドやビデオ(約10分)などの映像を用いて、洪水時の漁撈や農業、牛の放牧、丸木舟を漕いで通学する小学生、浸水した家屋で暮らすために寝床を高くする方法などについて見てもらいました。ザンベジ川氾濫原では、農業・牧畜・漁撈などといった生業活動、そして人々の生活そのものが、ザンベジ川の季節的な洪水と深く結びつきながら営まれています。日本では災害としてのイメージがつよい「洪水」というものが、ザンベジ川氾濫原では必ずしもそうではなく、むしろ暮らしを成りたたせるうえでの「豊かさ」の源泉になっていることを話し、授業を終えました。

授業の終了後、受講した生徒たちに感想・意見を記入してもらいました。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。