森との共存を考える−カメルーン共和国、ピグミーの森から-

服部志帆

11月15日(火)「森の民ピグミーの生活」

まず、大学院入学前に書いた「森の民へのおもい」というエッセイを読んで、アフリカのピグミーを研究するきっかけについて話しました。大学時代に環境問題に関心を持ち、森とうまく付き合っている人々のところに、「アフリカの森と共生する秘密」と、「日本で自然と共生するヒント」を見つけにいこうと思ったということです。これは二度目の授業の最後に話すので、みんなも授業の間に考えてみてくださいとお願いし、アフリカの森の特徴とピグミーの生活をスライドを使い説明していきました。バック・ミュージックは、ピグミーの音楽です。ピグミーの物質文化である木臼、杵、まな板、すりこぎ、おたまなどの実物も回しました。

アフリカの森には、哺乳類や鳥類、魚類、爬虫類や昆虫などさまざまな動物と、8000種をこえるといわれる植物が生息しており、その中には絶滅危惧種であるゴリラやチンパンジーなどもいます。そのような多くの動植物に強く依存しながら、ピグミーは生活を営んでいます。森で狩猟や採集、漁労行う一方、畑で農耕も行っています。熱帯林では雨季と乾季があり、これらの季節に合わせて彼らは森の産物を利用します。とくに、乾季には数ヶ月にわたり遠く離れた森の奥のキャンプに滞在し、男性は狩猟やハチミツ採集、女性は掻い出し漁という漁労に励みます。また、男女ともに野生のヤマノイモやさまざまな果実の採集を行って過ごします。子供たちもお父さんやお母さんについて行き、森で生活する技術や知識を学びます。

授業風景

11月18日(金)「ピグミーの植物文化」「今、森の世界で起こっていること」

前回の話を少し復習した後、森の様子を伝えるために、今年書いたエッセイ「大きな森へ」を読みました。その後はスライドを使い、生活や文化のいたるところで森の植物が登場するという、ピグミーの植物文化について話しました。

ピグミーは植物を頻繁に利用しており、植物に関する詳細で豊かな知識を持っています。植物は、食用や物質文化・建材、薬、儀礼、交易品などに利用され、654のうち77%の植物がなんらかの利用価値を持っています。すべてを紹介するのは無理なので、クズウコン科の植物を例にします。クズウコン科の植物は、種子がおやつになり、茎でマットや籠、小刀の鞘などが作られ、葉は、クッション、包み物、お皿、うちわ、かさ、ちりとり、鍋、タバコの巻紙などに利用されます。また、茎は鼻に通すアクセサリー、実は口の上にいえるアクセサリーや櫛になり、花はお化粧にも利用されるほか、根が頭痛の薬にもなります。クズウコンの利用方法を数えたら、全部でなんと200通り以上もありました。ピグミーは、このように森の植物を利用する豊かな知識と技術を持ち森で暮らしているのです。

前回の最初に考えてくださいとお願いした、「アフリカの森と共生する秘密」についてお話したいと思います。答えは簡単なのですが、簡単すぎることがわからなくなることが多いので、もしかしたらわかりにくかもしれません。答えは、動物や植物が生息する豊かな森と、そして森で生きていくための技術や知識です。ピグミーは5000年以上も前からアフリカの森に暮らしているといわれていますが、彼らがこれまで森と共生してこれたのは、この2つがあったからだといえます。では、日本で自然と共生していくことのヒントはどこにあるでしょうか?まずは、自然を見る眼を磨くことを提案したいです。都会といえども、植物や動物はけっこういます。まず身近なところ草花、鳥に目を向けてみてはどうでしょうか。そしたら、彼らがいまどういう状況に置かれているのか見えてくるだろうし、次にどうするかも見えてくるかもしれません。

最後に、アフリカの森、とくにカメルーンの森で起こっていることをお話します。カメルーンでは1970年代より伐採が始まり、近年伐採事業は増加しつつあります。伐採が行われると、木が切られ動物の生息地が減少するだけでなく、植物や動物に依存していたピグミーの生活も危うくなります。また、伐採に伴い自然保護計画が1998年から開始され、国立公園の制定、狩猟の禁止などが行われています。ピグミーの活動域は国立公園内にも及んでいるので彼らの生活は違法になるし、また、ピグミーの狩猟している動物の大半が狩猟禁止にされています。これまで見てきたように、ピグミーは動物や植物に強く依存しており、伐採事業や自然保護計画がピグミーに与える影響ははかりしれないものがあります。「アフリカの森はいったいだれのものなのか」と皆さんに問いかけて、終わります。

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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。