八塚春名
本書は16冊のシリーズ本である『生態人類学は挑む』のうちの1冊で,生物資源の活用に着目した9編の論考からなる.アフリカ以外の事例を扱う章もあるが、9つのうちの7つの章はアフリカ(タンザニア、マダガスカル、ガーナ、ウガンダ)を舞台にした話題だ。
生態人類学は自然に密着して暮らす人びとの生活を解明する学問である。1960年代頃より、アフリカの森や林のなかで、あるいは乾燥地で、周囲の自然資源を巧みにつかいながら暮らす人びとの生活が生態人類学者によってたくさん報告されてきた。わたしも先人たちによるそれらの報告に魅了されてきたひとりである。しかし80年代後半以降、アフリカの地方に暮らす人びとの生活は、政治・社会的変化や環境破壊の大きな影響を受けて急激に変容してきた。わたしがいくら憧れても、かつて読んだ本に登場した人たちとまったく同じ暮らしを見ることは叶わない。しかし、それでも人びとは枯渇しゆく資源を既存の知識や技術を基盤に据えながら、さまざまに工夫しながら利用し続けている。本書は、環境破壊や気候変動の影響を受けながらも、人びとが変動する環境となんとか向き合いながら、生態資源を「残しながらつかう、つくりながらつかう」ようすを、詳細に報告したものである。それゆえ、既存の資源の利用法を継続する例だけでなく、むしろ、新たな「つかう」や「つくる」を生み出す人びとの姿が多く描かれている。
以前におすすめアフリカ本で紹介された同じシリーズの『わける・ためる』と一緒にぜひどうぞ。
目次(*はアフリカの話題、★はアフリック会員)
序章
第Ⅰ部 つかう
第1章:畑地利用のローカル戦略—樹木のある畑地景観のつくり方・つかい方(大久保悟・徳岡良則)
*第2章:人とザンジバルアカコロブスの関係を考える—国立公園の設置をめぐって(野田健太郎)
*第3章:出作りによる乾燥林の焼畑—マダガスカル南西部における無主地の利用(安髙雄治)
第Ⅱ部 置き換える
*第4章:雑草の資源化—ボルガバスケット産業における材料の転換(★牛久晴香)
第5章:つかい,つくられるラオスの在来野菜(小坂康之)
*第6章:新しい生態系をつくる(伊谷樹一)
第Ⅲ部 つくる
*第7章:「つくる」と「つかう」の循環をうみだす—タンザニアにおける籾殻コンロの開発実践をとおして(平野亮)
*第8章:食文化を支える再生可能燃料—ウガンダ・首都カンパラにおけるバナナの調理方法とバイオマス・ブリケットの活用から(★浅田静香)
*第9章:消えない炭と林の関係(多良竜太郎)
終章:資源をつかう,つくる(伊谷樹一)
書籍情報
出版社:京都大学学術出版会
定価:本体3,200円+税
発行:2021年 7月
判型 :A5並製・320頁
ISBN : 9784814004416
出版社のサイト:https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784814004416.html