『世界の社会福祉年鑑2016 〈2017年版・第16集〉』宇佐見耕一・小谷眞男・後藤玲ら=編

紹介:村尾 るみこ

難民の世紀は終わったはずだった。
世界難民の日の6月20日、そう思わざるをえなかった。
21世紀に入り、難民人口は最多を記録している。安全保障の問題に加え、世界経済の行く末をも危うくするこの未曽有の事態のなかで、アフリカの難民の人びとは、メディアが報じているように、「不運の人」や「保護するべき人」、「警戒すべき人」であるだけでは決してない。では、彼らはどのように生きる場を獲得しようとしているのであろうか。またその状況は、今日いかなる特徴をもつのだろうか。

本書は移民・難民問題と社会福祉の特集が組まれており、EUや、イタリア、台湾、フィリピン、ブラジル、ザンビアと世界各地の社会福祉の現状から、上記の問いに多様な答えを示唆するものとなっている。また、社会保障論や社会福祉学と重層する新たな議論を多角的に提起するため、執筆者の専門領域も、経済学、政治学、文化人類学、社会学、人口学、保健学等と多様である。

私が担当したザンビアの事例(タイトル「ザンビアにおける国民と難民の開発―社会福祉実現にむけた課題」、pp. 121-144)は、長期化難民の経済的負担分担をすすめるグローバルな取り組みの一環として、難民の社会統合プロジェクトがすすめられている。同プロジェクトは、元難民が受け入れ地域社会の一員として社会サービスを享受することができるよう、法的地位の移行とともに住民移転をともなう地域開発が進められている。

しかしながらプロジェクトはすすんでおらず、これまで難民研究者・実務家らの間で疑問視されてきた、難民を対象とした開発の実現可能性に深く関わるものとなっている。さらに、難民の生活向上は、権利ベースに考えるべきか、それとも難民が積み上げてきた「日常のなかの福祉」機能をベースに考えるべきかといった議論にも疑問を投げかけている。

難民問題の恒久的解決策として、20世紀末から強く推進された難民の帰還が多くの課題を抱えているが、難民の社会統合は、帰還に並ぶ現実的な解決策を進めるものとして重視されている。しかし、フィールドワークを通じて収集した情報資料に基づくローカルレベルでの社会「統合」プロセスの記述は世界的にも蓄積が薄い。そうであるからこそ、本書のザンビアの事例の来し方行く末を難民に寄り添いさらに考究していくことは、「世界の社会福祉年鑑」のシリーズ本が目指す持続可能な社会保護(社会保障・社会福祉)の構築にむけた途を拓くものといえよう。

書誌情報

出版社:旬報社
定価:本体 16,200円(税込み)
発行: 2016/11/25
判型・ページ数:A5判・440頁
ISBN: 9784845114825


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日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。