『新生アフリカの内発的発展−住民自立と支援』 大林 稔・西川 潤・阪本 公美子=編

紹介:村尾 るみ子

「新生アフリカの内発的発展」は、グローバル化がアフリカに正負双方の影響を及ぼしてきたとする前提にたち、「内側から」、かつ様々なレベルでアフリカを論じている著作である。この点で、私たちアフリックが、アフリカの人びとの視点、すなわち「内側からの視点」に寄り添うという、アフリックの活動の原点であり基本姿勢の特徴を照射する興味深い書であろう。

本著作のタイトルにある「新生アフリカ」とは、本書で区切られたアフリカ独立前・独立〜20世紀末、21世紀という3つの時代のなかで、21世紀のアフリカ社会が前時代区分の流れをくみながらも過去の諸問題を克服しつつ変化してきたことを意図しているという。また、この書において、「内発的発展」というキー概念は、本書が既存の内発的発展論に理論的・実証的に貢献することを唯一の目的として設定されているわけではない。それはあくまで先の「新生アフリカ」である21世紀のアフリカを捉える分析の基軸として設置されているものであり、現代アフリカを「内側から」理解するサーチライトの役割を果たしている。

本書は第一部「各国・地域に見る内発的発展−住民自立に根ざす自前の民主主義」と、第2部「内発的発展と外部支援−相克と協働」の2部で構成されている。第一部では、アフリカ各地でみられる内発的発展の実例を検討することから、住民の主体性・自律性を活かした民主主義的発展が可能であるか、可能であればどのような条件においてか、を検討している。また第2部では、内発的発展と外部支援の関係に注目し、「外部支援」による内発的発展の規定や、地域社会内部独自の発展の萌芽・進展を議論している。以上、本書全体を通じては、先に指摘した分析の基軸としての「内発的発展」が、分析枠組みとして、また社会・経済変化に加え文化的変化を議論するホーリスティックな分析方法として、新生アフリカが対峙する問題群を広く深く描写するよう、以下の章構成でまとめられている。

序説 新生アフリカにおける内発的発展の動態と展望 西川潤・阪本久美子

第㈵部 各国・地域に見る内発的発展
第1章 内発的発展の国際政治経済学 勝俣誠
第2章 エチオピアの開発と内発的な民主主義の可能性 西真如
第3章 内発的農村開発を支えるコミュニティ種子システム 西川芳昭
第4章 ニジェール農民の生計戦略 関谷雄一
第5章 アンゴラ移住民のマーケット活動 村尾るみこ
第6章 自然保護への抵抗としての内発性 岩井雪乃
第7章 「周辺」から再考する内発的発展 阪本久美子

第㈼部 内発的発展と外部支援
第8章 モザンビーク・プロサバンナ事業の批判的検討 舩田クラーセンさやか
第9章 アフリカでのMDGsおよびEFA支援の功罪 石田洋子
第10章 開発援助政策の変遷と限界 尾和潤美
第11章 内発的なガバナンス政策 笹岡雄一
第12章 可能環境(Enabling Environment)アプローチ 大林稔

あとがき

本書で指摘されているように、現在のアフリカは、「多様性の上に連帯を求める」時代にあるとされている。その手がかりになりうる、今日のアフリカの内なる魅力や課題は、当然のことながらアフリカで再考されるべきものにとどまらない。アフリカ諸国と向き合う世界の国々、つまり日本に住む私たちにとってのアフリカへの理解を問い直していくことは、グローバル化の進行した今日、私たちが「私たち」の多様性を認めながら同じ時代を共に生きることを考える、肝要な課題である。

では、私たちアフリックの「内側からの視点」に寄り添う活動は、いかなる特徴をもちながら、現代のアフリカを皆さんと考えるものであろうか。いま、アフリック設立から10年がたつが、設立当初から、長期フィールドワークを通じて得た「共感」や、「現地社会の複雑な成り立ち」を現地の人びとの視点に寄り添い理解する重要性について現地で学んだ経験をもとに、多様なメンバーが集いアフリックとして多方面での活動を積み重ねてきた。そうしてアフリックの活動を通じて、アフリカの日常で生起する可能性や困難を「内側からの視点」としてささやかに提示しながら、一括りでは語り難い現地の実態を考え続けてきた。確かに、アフリックの取り組みは、一つ一つの規模が小さく、緊急性より日常性に焦点をあてながら試行錯誤のプロセスを重視する。それはときに茫漠としたものに見えるのかもしれない。しかし私たちの活動の重要な特徴とは、現地の人びととの長期にわたる直接的な関わりに基づいていることである。それゆえアフリックの活動は、新生アフリカにおけるローカルレベルでの多様性を照らす確かな光であり、日本とアフリカとの関係を現代進行形で広く深く創り出すよう推進 する、強い力をもつものである。本書の執筆と紹介とを通じて、改めてその重要性を確信している。

書籍情報

出版社: 昭和堂 (2014/01/25)
定価:3,200円+税
単行本: A5・256ページ
ISBN-13: 9784812213353