『講座サニテーション学 第5巻 サニテーションのしくみと共創』 清水貴夫・牛島 健・池見真由・林 耕次 編著

紹介:林 耕次

紹介する講座本は、総合地球環境学研究所で2016年から2022年まで実施されたプロジェクト「サニテーション価値連鎖の提案 ヒトに寄りそうサニテーションのデザイン」の成果に基づく全5巻のシリーズである。「講座」というとやや堅苦しい感じもするが、もともとの刊行企画時のコンセプトは、「とある大学で“サニテーション学科”なるものが設置されたとして、その学生にテキストとして読んでもらう」ことが想定された。

「サニテーション(Sanitation)」とは、「ひとが排出するし尿や排水、ゴミなどを安全に処理するための設備やサービスの提供」を指すが、英和辞書などでは広く「(公衆)衛生」と訳されていることが多い。他方で、昨今のコロナ禍にも関連した世界的な衛生習慣・衛生管理への意識が高まる中で、水(Water)、サニテーション、ひとの行動における衛生をあらわすハイジーン(Hygiene)、この3つのことばの頭文字をとった「WASH」(Water, Sanitation, Hygiene)が注目されている。また、SDGsでの「ターゲット6」では「安全な水とトイレを世界中に」と掲げられているが、英語では“CLEAN WATER AND SANITATION”となる。

講座本では、現在、第1巻と第5巻が刊行されているが、ここで取り上げる第5巻は、フィールドに焦点をあてた「サニテーションのしくみと共創」と題されたもので、特にアフリカに焦点をあてた論考が多彩である。

本書は、理論編である第1部、実践編の第2部、プロジェクトの関係者による2編の座談会で構成されているが、序章と終章を除く計9章、コラム3編のうち、アフリカ地域の事例は5章、コラム1編におよぶ。

第2章「国内外のアクター間の対立と連携」(鍋島)では、国際政治学の立場よりアフリカ諸国での近代化の過程とブルキナファソの農村地域におけるサニテーションを取り巻くアクターについて論じられている。第3章「ステークホルダーとしての生活者」(池見)では、セネガルにおける水と衛生に関して、国レベルでの政策から農村地域での実際の住民組織のあり方について詳細に述べられている。第6章「カメルーン」(林、清水)では、もともと特定のトイレで排泄をする習慣がない定住した狩猟採集民を対象として、「そもそものトイレの必要性」を探りながら、住民や現地NGOとのトイレ造りに至るプロセスが論じられている。第7章「ブルキナファソ」(清水)では、農村においてし尿汚泥の農業利用とトイレの管理について、研究者とローカルNGOが住民を導いていく過程が描かれている。第8章「ザンビア」(原田、Nyambe、山内)では、首都ルサカの都市周縁地域において、子どもと若者による参加型アクションリサーチ(Participatory Action Research; PAR)の試みについて紹介され、水と衛生に関する意識の広がりや実践について論じられている。第8章に続くコラムでは、「可視化されたサニテーションの知」(片岡)と題し、ザンビアのPARにおける取り組みについて、生活知と科学知、コミュニケーションの視点から分析を試みている。

以上のように、サニテーションをめぐる問題は、本書で紹介されているようにローカルな地域社会でも、グローバルな国際社会においても喫緊の課題とされているが、本書はアクター間の「共創」における試行錯誤の記録としても、アフリカ地域以外の論考も踏まえてサニテーション改善の実践事例を示す書としてお奨めしたい。

 

講座サニテーション学<全5巻>

第1巻 総論 サニテーション学の構築

山内太郎・中尾世治・原田英典 編著 198ページ・定価3,200円(既刊)」

第2章 社会・文化から観たサニテーション

中尾世治・牛島 健 編著(2022年冬 刊行予定)

第3巻 サニテーションが生み出す物質的・経済的価値

藤原 拓・池見真由 編著(2023年春 刊行予定)

第4巻 サニテーションと健康

原田英典・山内太郎 編著(2022年冬 刊行予定)

 

書籍情報

単行本(ソフトカバー): A5判・412ページ

出版社: 北海道大学出版会

定価:4,200円+税

言語: 日本語

ISBN-: 978-4-8329-2955-5

発売日:2022/3/31