新世界の社会福祉―11巻アフリカ/中東 牧野久美子・岩崎えり奈/編著

紹介:村尾 るみこ

社会福祉という言葉は、日本では公的扶助や公助の領域をイメージすることが多いかもしれない。アフリカではどうであろう。アフリカで公的扶助や公助と呼ばれる領域は、近年整備が進んでおり、前世紀に比べますます看過できないものである。一方で、相互扶助と呼ばれる領域は、今日のアフリカ社会のなかでより重要性の高い社会福祉の領域とされている。それはいかなるものであろうか。世界の社会福祉に関する最新のテーマを幅広く取り扱った「新世界の社会福祉」の11巻アフリカ/中東は、特にMDGsとSDGsがアフリカ開発と福祉に重要な役割をはたしてきた近年に焦点をあて、フォーマルおよびインフォーマルな制度の実態を7か国の事例から提示している。サブサハラ・アフリカで取り上げられたのは、エチオピア、ナイジェリア、カメルーン、コンゴ共和国、ガーナ、南アフリカ、モザンビーク、ザンビアである。以下では、6月20日にむかえた世界難民の日にちなみ、紹介者の担当であるザンビアの難民に焦点をあてた社会福祉について中心に紹介する。

難民は近代の国民国家モデルから「排除」されてきた存在である。そうであるからこそ、特に公的扶助が隅々まで行き届かないアフリカにおいて、難民は人道支援によって公的扶助の欠如状態を生き抜いていることが指摘されてきた。しかしながら、増加しつづける難民数はアフリカ諸国の負担を増大させたため、その責任分担と難民保護との両立が長らく課題となってきたのである。

今日、世界の難民数は、2019年末現在で最多の7950万人(前年比12%増)をこえた。アフリカでは地下資源をめぐる対立やイスラーム急進派による局地的活動が難民発生の原因として指摘され、難民状態が長期化していることが再三強調されている。難民の恒久的解決のうち、帰還が現実的でない状況が続けば、庇護国での現地統合が現実的な解決策となる。近年帰還や現地統合では、人道支援から開発援助への重点移行が理想とされ、難民の社会福祉はそれまで人道支援の分野でザンビアのような長期にわたり難民定住地で難民を受け入れてきた国では、実際に世界の平和構築のモデルケースとなるような難民の開発が期待され推進されてきた。

ザンビアでの難民の開発は、「難民参加型」であることが期待されてきたが、現地統合の理想とは実態がずれてきた。現地統合のために準備された住民移転プログラムでは、難民たちが全員もろ手をあげて移住しているわけではないからである。難民の開発が実施されている難民定住地周辺はザンビアのなかでも辺境地にあり、住み慣れた難民定住地からその周辺域へ家族バラバラで移ったのち、食料や現金を確保する手段はほぼすべて難民自身で考えなければならなくなった。教育や保健医療、飲料水に関する社会サービスについても、高齢者への給付金を除き、人道支援のほうがよほど彼らにとっては充実していたという。難民にとって、公的扶助のままならない国民と同様に現地社会へ「統合」されても不安なだけだというのも当然であろう。

しかし、こうした不安な状況のなかで、難民自身が日々いかに工夫したり諸問題へ対処しているのであろうか。例えば、自分たちで手に入るものやサービスのなかで、難民が日々最大限に衛生面に気を配ろうとする面や、都市部で生活する親族へ子どもをあずけ教育をうけさせるもの、他国出身の難民とビジネスネットワークを構築し経済活動を多様化させながら日銭を稼ぐものなど、さまざまある。ザンビアの難民たちは、長年の「難民状態」で取得したり構築してきたモノやネットワークを、ザンビア国民に「つまはじき」にされず活用し、近年のザンビアにおける公的扶助の整備がゆきとどかない状況を生きている。

2020年のいま、大規模かつ人びとが密集し、一人ひとりの衛生「管理」がままならないアフリカの難民キャンプは、新型コロナウィルス感染者の激増が懸念されている。しかし、日本をはじめ難民支援への予算削減がすすめられつつある一方で、その対応が難民一人ひとりに行き届くには、今しばらく時間がかかるかもしれない。これからも難民自身が日々どのように能動的な取り組みをおこなっていくのか、そのボトムアップで築かれる社会福祉の領域に注目したい。

*本書は、最新の世界の社会福祉を紹介すべく、全12巻で発刊されているシリーズ本のうち、第2期で発刊された7~12巻の6巻セットのうち、11巻にあたる。