『ショー・パフォーマンスが立ち上がる:現代アフリカの若者たちがむすぶ社会関係』大門碧=著

紹介:大門 碧

「かれらはカリオキをしている」

2006年、東アフリカのウガンダの首都カンパラで、演劇の調査をおこなっていた私が、アマチュアで無名な若者たちの活動についてたずねたところ、聞きなれない言葉が返ってきた。とりあえずノートに「karioki」と書きこみ、それがどこでやっているかを尋ねたことを今もよく覚えている。その後、実際に「カリオキ」を見に行き、それがレストランやバーのステージで夜間におこなわれる、音楽をふんだんに使ったショー・パフォーマンスであることを知った。そしてマイクを握る若者たちの姿を見て、「カリオキ」が日本の大衆文化「カラオケ」から来ていることに気づき、興奮した。「これは、日本人である私が調査しなくては!」そう思いこんで、ウガンダに通い続け、断続的に約2年間、このショー・パフォーマンス、「カリオキ」についてフィールドワークを実施した成果をまとめたものが本書である。

本書の目的は、「カリオキ」の公演準備や本番の様子を観察することをとおして、パフォーマーたちである若者たちの社会関係の実態を明らかにすることである。もちろんウガンダのカンパラならではの地域的な特性についても取り上げているが、アフリカ諸国の多くの都市とも共通点があるため、本書で考察している社会関係は現代アフリカ都市の若者たちの社会関係のひとつとして提示できるものと考えている。

パフォーマーたちはグループをつくって「カリオキ」を公演しながらも、そのグループへの所属を簡単に変更したり、複数のグループをまたいで公演活動をおこなったりする。公演時は、公演場所のレストランの事情やパフォーマーのちょっとした気分によるプログラムの変動があとを絶たない。それらの変化を飲みこみながら、パフォーマーたちはステージに立つのである。最初はバック・ステージでひたすらノートに記録することを続けていた私は、パフォーマーたちにもっと近づきたくて、一緒にステージに立って「カリオキ」をおこなうことにも挑戦した。そして「カリオキ」が、メンバーシップやプログラムが変化するなかで、ともにいるパフォーマーの存在を無視して、自分のやりたいことだけやっている場でもないことに気づいていったのである。

本書を執筆するにあたって、できるだけ「カリオキ」がおこなわれる現場や、このショー・パフォーマンスがおこなわれているカンパラにいる臨場感を出したいと考えた。そこで各章の扉には、「カリオキ」で使用されているウガンダのポピュラー音楽の歌詞とそれにかかわるカンパラの人びとの生活模様や価値観を紹介し、各章の終わりにはコラムを挿入し、本書全体を解釈するための補助的な資料を提供するだけでなく、パフォーマーの顔や私の調査の様子が具体的に見えるように工夫した。また本書の後半では、私自身が「カリオキ」にパフォーマーとして参与して得た資料もとりあげるため、「筆者」から「私」に表記を改め、筆者であり、調査者であり、そしてカンパラで夜中までパフォーマーたちと出歩いていた「私」を登場させることで、フィールドで人びととかかわることを、読者にもできるだけそばで感じてもらおうと努めた。「見た目が命」のパフォーマーたちが研究対象である本書には、もちろんパフォーマーたちがおしゃれしてかっこつける様子も「バック・ステージのファッション・ショー」と題した写真特集で掲載している。 その写真のなかで、カンパラの若者たちに囲まれてノリにのっている「私」の姿をちらっと見ていただければ、きっとあなたも魅惑のカンパラの夜に近づけるはずなのだ。さあ、少し試してみてはどうだろう。

目次

序章
グラフ1(写真特集) カンパラの相貌
第1章 カリオキの概要
コラム1 カンパラの夜食事情
第2章 カリオキ勃興の背景とその展開
コラム2 「クチパク」への評価
第3章 パフォーマーたちの多様性とカリオキへの関与の仕方
コラム3 カンパラのヤバイやつら、バヤーイェ
第4章 相手の受入れ—カリオキを立ち上げる実践
グラフ2(写真特集) バック・ステージのファッション・ショー
第5章 互いを取りこむカリオキ
コラム4 カリオキ・パフォーマーの歩み—カイの場合
第6章 歌にちらつくパフォーマーのかげ
コラム5 私の調査仲間
終章

書誌情報

出版社:春風社
定価:4,500円+税
発行:2015年3月
A5判上製/352頁
ISBN-10: 4861104491
ISBN-13: 978-4861104497