『アフリカ熱帯農業と環境保全—カメルーンカカオ農民の生活とジレンマ』 坂梨 健太(著)

紹介:坂梨 健太

チョコレートの原料であるカカオは、世界の生産量のうち約3分の2がアフリカの4カ国(コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア、カメルーン)で作られている。カカオ生産と言えば、大規模なプランテーションやそこで行われている児童労働を思い浮かべるかもしれない。本書では、むしろ、カカオ販売によって、なんとか子供を学校に行かせようとする小規模な家族経営を対象としている。

調査地であるカメルーンをはじめ、今日の中部熱帯アフリカは、動植物が豊富に残っているとして、環境保全(森林保全や野生動物保護)の観点から世界的に注目されている。その流れの中で、カカオ・アグロフォレストストリー(住民にとって有用な木々を畑に残して行われるカカオ生産)が奨励され、一方で、住民が日常的に行ってきた狩猟活動は規制されている。しかし、本書では、カメルーン南部の事例から、カカオ・アグロフォレストリーと狩猟が密接に結び付いていることを明らかにした。なぜ、どのように密接に結びついているのか、興味を持たれた方はぜひ本書を手にしてもらいたい。

本書の一つの特徴は、調査地の村々が道路沿いにあることを強調している点である。この道路は、地方に行くほどアスファルトではなく、赤土が剥き出しになっているが、それでも住民にとって町へ向かうための貴重な経路であり、一方で国家、国際機関、都市住民が環境政策、農業技術、様々な商品などを森林地帯へ持ち込む経路となっている。植民地時代の定住化政策やカカオの導入によって、早くから道路沿いに暮らしていた農民は、都市からの介入に出遭うことが多いだろう。つまり、このような道沿いにある村々にこそ、中部熱帯アフリカの今が映し出されているのである。本書で紹介する事例を通して、現在の中部熱帯アフリカの農業や農村を少しでもイメージする助けになれば幸いである。

目次
序章  中部熱帯アフリカにおける農業・農民研究の課題
第1章 ファンの農業と狩猟採集活動
第2章 ファンの農業生産における労働力確保のしくみ
第3章 カカオ導入の歴史と地域的崔
第4章 カメルーン南部のカカオ・アグロフォレストリー
終章  21世紀の中部熱帯アフリカ農業の展望

書誌情報

出版社:昭和堂
定価:5300円+税
A5版/223頁
ISBN:978-4812214114