「アフリカ」と聞いてあなたはどんな言葉を連想しますか? 人によって答はちがってくるとは思いますが、そうしたなかにあっても、野生動物は比較的に多くの人が「たしかに、アフリカといえば野生動物だ」と思えるような対象ではないでしょうか? あるいは、ゴリラと聞けばアフリカの鬱蒼とした森林を、ライオンやゾウと聞けばアフリカのサバンナを思いうかべる人も多いと思います。とはいえ、それではゴリラやライオン、ゾウ、またはイノシシやバブーンなどの野生動物がアフリカの人たちとどういうかかわりをもっている(きた)のかという点については、意外に知られていないのではないでしょうか?
今回、紹介する『人と動物の人類学』にはアフリックの会員3名が寄稿しています。これまでアフリックでは「アフリカ便り」のなかでアフリカ各地の人と動物の関係を紹介もしてきましたが、この本のなかでは人間が変身した存在としてゴリラが考えられたり人間それじしんがゴリラと同類であるかのようによばれたりする状況や、ライオンと牧畜民がおたがいに攻撃しあうなかで共存してきた歴史的な経緯、あるいは、今日の野生動物保護の政策が地域住民と野生動物との関係をいかに変化させてきているのかといったことが詳しく描かれています。期せずして、アフリカを事例とする会員3名の話は、ローカルな野生動物の認識、ローカルな人と野生動物との間の相互行為、そうしたローカルな関係に影響を及ぼすナショナル・グローバルな保護政策の影響といった形で強調点が少しずつちがっています。その意味では、この本(におさめられた3章)はアフリカにおける「人と動物」の関係を知りたい人にとってはうってつけに思えます。アフリカ以外の地域の話もふくめて、「人と動物」の関係に興味がある方にオススメです。
目次
序 人と動物の関係を地球規模で見てみる
1 動物と話す人々
2 告げ口をするブタオザル—ボルネオ島プナンにおける動物アニミズム
3 西欧におけるハイブリッドとしての怪物—人間と動物を構成要素とするその身体と役割をめぐって
4 「人間ゴリラ」と「ゴリラ人間」—アフリカ熱帯林における人間=動物関係と人間集団間関係の交錯と混淆
5 生きているマンダラ—ヴァジュラ・ヨーギニーとサンクの生態宇宙論
6 隠岐島のばける蛇—または森羅万象に口を割らせること
7 野生動物とのつきあい方—生物多様性保全におけるツキノワグマとジュゴンの位相
8 共存を可能にする〈境界〉の再生産—マサイ社会におけるライオン狩猟とゾウの追い払い
9 隔離された越境性の再検討—エチオピアの獣害対策におけるローカルな境界認識を手がかりにして
10 動物にひそむ贈与—人動物の社会性と狩猟の存在論
アフリック会員の執筆章:4(大石高典)、8(目黒紀夫)、9(西崎伸子)
書籍情報
出版社:春風社
定価:2381円+税
発行:2012年9月
四六判(並製)・380頁
ISBN-10: 4861103258
ISBN-13: 978-4861103254