『森棲みの生態誌』 木村大治・北西功一=編 、『森棲みの社会誌』 木村大治・北西功一=編

紹介:坂梨 健太

本書2冊は、1970年代から開始されたアフリカ熱帯雨林における日本の人類学研究の現時点での集大成です。日本にいても話題にあがる熱帯雨林破壊の問題、一方で森林保全を推進する先進国のNGO等の介入。そのような現代的問題の中で、実際にそこで棲まう人々がどのように生を営んでいるのか、政治、歴史、文化といった多様な視点からあきらかにした初学者にもわかりやすい本でしょう。

本書は、その道の第一人者である (アフリックの会員でもある) 市川光雄教授 (京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科) の退職にあわせて、数年前から準備を始め、今年3月にようやく出版されました。いわば、市川さんと長年研究をともにしてきた研究者と教えを受けた若手研究者が書いた論文集です。

その教えを受けた私が、調査をおこなうに当たってまずもって言われたことは、「目で見て計れるものはとにかく計ってデータをとるように」というものでした。本書の私の論文も森にひとりポツンと残され、現地の人々と生活を共にしながら、がむしゃらに集めたデータが基礎になっています。執筆者の多くは、私と同じような経験をしたのではないかと思います。これは「社会誌」のまえがきでも言及されている「生々しいフィールドの感覚を書き記す、愚直だが確かな方法」だと言えます。

本書に収録された論文には、このような手法をベースにさまざまな切り口から、森に棲まう人々の世界が描かれています。両書の第㈵部は総説となっており、アフリカ熱帯雨林に暮らす狩猟採集民、農耕民の研究史やかれらを取り巻く現代の問題がわかりやすく整理されており、第㈼部以降の論文の背景を提供しています。同じ民族、地域を対象とする論文が多く、巻をまたいで相互に引用され、それぞれを補強しあっている点は本書の大きな特徴でしょう。

加えて、論文の他に掲載されている「フィールドエッセイ」には調査地での体験や研究者の想いなどが記されており、本書のスパイスとなっています。本書は、現場の生々しい実態を伝え、アフリカ熱帯雨林の旅へといざなってくれることでしょう。

書誌情報

「森棲みの生態誌」425頁
出版社:京都大学学術出版会
定価:5000円(税別)
ISBN 978-4-87698-952-2
発行日:2010年2月28日

「森棲みの社会誌」395頁
出版社:京都大学学術出版会
定価:4700円 (税別)
ISBN 978-4-87698-953-9
発行日:2010年3月25日