アフリカの豊かな自然環境が失われる危機に直面しているのは周知の事実であり、アフリカの自然保護を目指した様々な取り組みが盛んにおこなわれるようになって久しいこともよく知られているだろう。しかしながら、「野生の楽園」と呼ばれるのと同じ場所で日々の暮らしを営む人々がおり、彼らが長きにわたって自然と共生してきたことは、見過されがちなのではないだろうか。かつての人間活動を一切排除するような保全にかわって、1980年代からは「住民参加型保全」がうたわれるようになり、現在では地域住民への配慮にもとづく保全政策がなかば常識となっているが、にもかかわらず、依然として地域住民が意思決定の場から疎外され、十分に利益を享受できないようなケースもすくなくない。
アフリカ諸社会にみられる、様々な問題に対してしなやかにかつ力強く対処する力(=アフリカ潜在力)に焦点を当てたシリーズの第5巻である本書では、地域住民の視点に立ったフィールドワークの成果をふまえて、こうした「住民参加型保全」のはらむ問題点に対する鋭い批判が投げかけられている。一方で、本書の執筆者らは、保全活動の現場の傍観者として外から政策を批判するだけの立場にはとどまらない。終始一貫して「アフリカの自然保護をアフリカの人々とともに考えていく」(p. 305) という姿勢で保全活動の現場に対峙することで、住民参加型保全のあり方の新たな可能性を探っていることが、本書の大きな特徴である。アフリカの人と自然の関係に興味を持つ人には必読の一冊であるといえるだろう。
以上の紹介を読んで、アフリックのことをよく知るみなさんの中には、本書をつらぬく理念がアフリックのそれと共通していると感じた方がいるのではないだろうか。つまり、「フィールドワークに基礎をおき、アフリカの人びとへの共感にもとづいて、アフリカから学ぶ」という姿勢である。じつをいえば、それは当然で、本書にはアフリック会員から編者の山越、目黒をはじめ、岩井、西、安田、松浦が執筆に加わっており、執筆者全体の半分以上を会員が占めていることになる。上記シリーズの他の巻も合わせて、アフリックの理念に共感する方々にぜひ手に取っていただきたいと思う。
目次
序章 アフリカの自然は誰のものか—参加型自然保護活動の現状と将来像
<第1部 自然保護の歴史と現状>
第1章 殺さない倫理と殺して守る論理—アフリカのスポーツハンティングを考える
第2章 森の先住民、マルミミゾウ、そして経済発展と生物多様性保全の是非の現状
第3章 神聖な森と動物の将来—在来知と科学知の対話にむけて
コラム1 都市に生きるヒョウとの共存—ナイロビ国立公園周辺住民へのケア
<第2部 住民参加型自然保護を問い直す>
第4章 豊かなゆえに奪われる野生動物—タンザニアにおける住民参加型自然保護
第5章 アフリカ熱帯雨林における文化多様性と参加型保全—ふたつの自然保護区における地域社会の比較から
第6章 コミュニティ主体型共同管理という言説
コラム2 新しい保全のあり方とは—「参加型自然保護」のバリエーション
<第3部 自然保護の新たな潮流と将来像>
第7章 新自由主義的保全アプローチと住民参加—エチオピアの野生動物保護区と地域住民間の対立回避の技法
コラム3 エボラ出血熱の流行で垣間見た自立
第8章 マサイ・オリンピックの先には何がある?—ケニア南部における「コミュニティ主体の保全」の半世紀
コラム4 アフリカ自然保護研究30年
終章 自然保護活動の実践におけるアフリカ潜在力の在処とその行方
書誌情報
出版社:京都大学学術出版会
定価:3,996円(税込)
発行:2016年 3月
出版社のサイト http://www.kyoto-up.or.jp/book.php?id=2116