世界レベルでの変動のなかで、アフリカの人びとや日本に住む私たちが岐路に立っている。日常のなかでそう実感しながら、今や将来を読み解こうと試みる人は大勢いるだろう。この本は、そうした多くの試みのなかの、ほんのわずか一端を示すものである。
アフリカの人口のうち、6割は農村部に住んでいる。グローバル化が進行する現代において、アフリカ農村に住む人びとの流動性や可塑性をいかに捉えるかは、アフリカ農民研究の課題であった。著者は、ザンビア西部の焼畑農耕民の生活再編が、紛争を逃れた人びとの生活の再編であったという気づきをもとに、農村に住む難民として取り上げられてきたアフリカ農民の生計変化の創造的な側面を、断続的なフィールドワークを通じて得た資料をもとにより広い文脈に捉えなおすことをめざし、この本を書き進めている。
農村に住む難民は、実際その人口を数えることが極めて難しい。アフリカ農村に住む人口のうちの、はたして何割が難民とよべる人びとであるかは不明である。しかし、推計では、統計上の難民人口の4から7倍存在するとされている。アフリカの難民人口が2010年末現在で約215万人であるから、少なくとも、農村に住む難民の数は決して小さいものではないと想像できる。
農村に住む難民について取り上げるとき、紛争により故地での生活基盤を喪失した難民が、新天地において、社会経済的に脆弱な状況をいかに克服するか、という関心が常につきまとう。これまでの報告では、農村に住む難民の脆弱な状況を規定する要因は、アフリカでの国家形成の不完全さや、補うことがあまりに困難な精神的・物理的損失の深さにあることが強調されてきた。そして農村に住む難民の生計戦略とは、彼らが紛争によって被った困難な状況に対抗し、困難に陥った難民にこそ潜在する「力強さ」を示すものとしてとらえられてきた。
しかし、著者は、ザンビア西部でフィールドワークをするなかで、農村に生きるアンゴラ難民の生計戦略には、これまで報告で示されるよりも、彼らをとりまく実に複雑な諸要因が関連しあっていると感じ取った。そしてこの本のなかに示されたとおり、農学や人類学等、様々な分野の調査手法と分析を取り入れながら、過酷な環境で生活せざるをえない難民の技術や知識、社会関係について学際的に追究してきた。以上を通じて、紛争と無関係ではなかったアフリカ農民が、紛争を引き起こし長期化させた世界レベルでの政治経済の変化、それによる制約をいかに創造的に生き抜いてきたかを、ニッチに入り込む生計戦略として描き出している。
序章
第1章 南部アフリカでの国家形成と紛争史
第2章 アンゴラ移住民と移動
第3章 新天地リコロ村での生活
第4章 過酷な環境でのキャッサバ栽売
第5章 ゆでキャッサバ、ロンボの商品化
第6章 ウッドランドでの土地用益権の調整
終章 制約下での生計活動
アフリカ農民研究の深化にむけて、この本は、多くの課題を残している。しかし、こうした多くの課題を越えながら、アフリカからの学びを通じて、彼らを含む「私たち」のいまや未来の生活の在り方を模索するための試みは、アフリカ各地でまだまだ続くであろう。
書籍情報
単行本: 326ページ
出版社: 昭和堂
言語: 日本語
ISBN-10: 4812212219
ISBN-13: 978-4812212219
発売日: 2012/4/1