紹介:溝内 克之
本書は、明石書店が発刊している「エリア・スタディーズ」シリーズの一つで、タンザニア連合共和国について概説している。タンザニアは、アフリカ大陸の東側に位置し、インド洋に面した国で、日本の約2.5倍の国土を有し、自然・社会・文化などの多様性に富んだ国だ。そのタンザニアの広大さ、多様性を示すように本書は、60という多くの章と8篇のコラムによって構成されている。各章と各コラムは、Ⅰ. 国土と住民、Ⅱ. 歴史の中で、Ⅲ. 産業、Ⅳ. 生活の基盤、V. 都市での生活、Ⅵ. 村での生活、Ⅶ. 各地の様子、Ⅷ. 村から国外へ、Ⅸ. 他国の関係、という9つセクションに分けられており、概説されている内容は幅広い。
2006年に出版された第1版から、内容は大きく改訂されている。約10年の間にタンザニアは大きく変化しており(当然、変わらないものもあるが)、それが反映された結果だ。第1版を読んだことのある方でも、第2版と比較しながらタンザニアの変化を読み解くという楽しみ方ができるだろう。第1版と同様に、どの章も平易な文章で書かれており、これからタンザニアについて知ろうとする初学者、旅行者、実務者など幅広い層がわかりやすいように配慮されている。平易な文章ではあるが、どの章も長期間の現地での生活やフィールドワーク、実務など執筆者の経験をもとに書かれており、すでにタンザニアに魅了されているような読者にも、新たな発見や学びを提供してくれるはずだ。幅広い層の読者が、それぞれ違った読み方を楽しめる本だ。
執筆者たちは「タンザニアを好ましく、あるいは応援したり学んだりしたいと思っている」(p.3)、現地生活者、研究者、実務家たちだ。今回の第2版では若手研究者など9名の新たな執筆者が加わっており、本書に新たな視覚を提供している。実はその9名のうち4名は、アフリック・メンバーだ。以下のコラム、章を担当している。アフリック・アフリカのHPに掲載されている「アフリカ便り」とつながる内容も多い。併せて読んでいただくとタンザニアへの理解が深まるのではないだろうか。
◆アフリック・アフリカ・メンバーの担当コラム・章◆
黒崎龍悟 コラム2「村人の手による小型水力発電」
八塚春名 コラム5「タンザニア庶民の味―ご当地ムレンダ」
溝内克之 38章「娯楽―バーで雑談」
近藤史 49章「農村―儀礼での楽しみ」
本書の編者は第1版同様、栗田和明さんと根本利通さんのお二人だ。栗田さんは立教大学の教授で長年、ニャキューサ人を対象に文化人類学的研究をなされている。近年は、アフリカ人の国際移動という新しいテーマにも取り組まれており、2011年には『アジアで出会ったアフリカ人―タンザニア人交易人の移動とコミュニティ』(昭和堂)を出版している。
もう一人の根本さんは、1984年よりダルエスサラームに暮らしており、旅行社 Japan Tanzania Tours (JATAツアーズ)を経営している。業務のかたわら、今回、執筆者に新たに加わった「若手」の面倒を見てくれている。2011年には、30年を超える定点観察の記録を『タンザニアに生きる―内側から照らす国家と民衆の記録』(昭和堂)にまとめている。またJATAツアーズのHPにはタンザニアの政治・経済・社会をテーマとしたコラムが随時、掲載されている。こちらも併せて読むことをおすすめしたい。
第1版が出版され、第2版が出されるまで10年の歳月がかかった。しかし、第3版はもっと短期間で出されるかもしれない。それほどタンザニアの近年の変化は急激であり、本書で書かれた「現在」はすでに過ぎ去った「現在」である。タンザニアは常に新たな姿を見せて我々を魅了してくれる。すでに各執筆者は新たな「現在」と向き合い始めている。
書誌情報
出版社: 明石書店
定価:2,160円+税
発行:2015年4月
単行本(ソフトカバー) 364頁
ISBN-10: 4750341770
ISBN-13: 978-4750341774