紹介:黒崎 龍悟
2012年に山梨県のトンネル内で天井板が崩落し、通行中の車が巻き込まれるという痛ましい事故があった。すでに10年たったが、車や電車で出かけてどこかのトンネルを通るときにその事故の話が頭をよぎることがある。というのも、高度経済成長時代に建設されたインフラ(公共施設、ガス、水道、道路、線路、電気などの生活の基盤を支えるもの)がその寿命を迎えつつあり、それらの保守点検や管理の見直しが必要とされているという話を聞いたからである。今後それを実行していくために膨大な資金と多くのマンパワーが必要とされるのは想像に難くない。特に過疎化が進行しているような地方の市町村では、人口減少時代にあわせたインフラの再構築を迫られている。
ところ変わって、アフリカの地方では、政府にもともと財源がないために、インフラ整備はまだまだ発展途上で、そもそもインフラが整備されていないところも多い。特に道路はその代表例で、簡易的にも舗装されていない道路は乾季には表層を削られることで砂埃を舞い上げ、雨季には泥濘化して無数の轍が通行を困難なものとする。著者の徳永氏は、このような政府のバックアップがほとんどない地域の小規模道路の持続可能な利用のため、簡易的な技術を用いた、住民参加型のインフラ整備の手法の普及に携わってきた。その手法が、タイトルにあるLBT=Labor Based Technologyである。本書では、このアフリカでの取り組み/経験を、すでに述べたような課題を抱える日本の地方へと役立てることの重要性が述べられている。それは、本書の「アフリカから学ぶまちづくり工法」という副題にあるように、裕福な国から貧困な国へという従来の支援とは逆のベクトルの視点によるものである。
本書で日本の事例として中心的に取り上げられている長野県伊那郡下條村は、典型的な中山間地の村でありながら、行財政改革や少子化対策に成功した村として知られる。独自のさまざまな取り組みがその背景にあり、その一つに、住民自身がLBTを用いて生活道路を整備していったことがある。LBTは住民の能力形成とインフラ整備の両立という側面もあり、それを裏付ける事例となっている。そして、この事例をとおして、日本とアフリカが同じ目線で地域の課題への対処を相互に手本交換できることが説得的に語られている。
アフリカから学ぶ、というのは私たちアフリカ研究者がよく言うことだが、それを理念のレベルではなく、具体的な手法でもって示しているところに本書の最大の面白さと意義がある。
目次
第1章 「地方創生待ったなし!」―地方が抱える深刻な課題と現状(グローバル化時代における日本の立場と期待される役割;グローバル化とは何か ほか)
第2章 「LBT」とは何か?―アフリカのまちづくり工法を学ぶ(途上国の経済状況と課題;途上国のインフラの整備状況 ほか)
第3章 「LBTの実績」―アフリカで関わった技術支援(LBTの歴史をひもとく;LBTによるさまざまな支援 ほか)
第4章 「日本でも活用されるLBT」―“奇跡の村”の秘密もLBTにあり(日本におけるLBTに似た事例;「奇跡の村」下條村の挑戦 ほか)
第5章 「LBTによる地方創生」―実は身近に根付いていたLBT(江戸時代のコミュニティ開発(道や用水路)「普請」
箱根の開発は民間主導で進められた ほか)
書誌情報:
出版社 : 大空出版
発売日 : 2017/4/20
単行本 : 264ページ
ISBN-10 : 4903175707
ISBN-13 : 978-4903175706