『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』NHKスペシャル取材班(著)

紹介:林 耕次

【アフリカ】に何かしら思いを巡らす場合,あるいは何かの目的でアフリカを旅するとき,当初の思いや目的は別にして,アフリカに「人類発祥の地」「人類のゆりかご」といった意識を抱くことはないだろうか?

本書は,2012年1月から2月にNHKスペシャルの4回シリーズで放送されたドキュメンタリー『ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか』の内容を綴ったものである。

全編を通じて必ずしもアフリカがキーワードとなっている訳ではないが,人類がホモ・サピエンスになってからの約20万年の進化,あるいは「人間とは何か」という命題について,人類学,考古学,心理学,遺伝子学,経済学,脳科学といった多様なアプローチから検証された内容が描かれている。そこでは,「なぜヒトは人間になれたのか」という副題が象徴しているように,人類としての進化の中でも,とくに「心」の在り方や「人間の社会性」に重きを置きながら,人類の進化の軸に沿った構成で各章のテーマを設定している。

第1章,南アフリカ・ブロンボズ洞窟が本書の旅の始まりとなる。この10万年前の遺跡から見出された”人類に最初に芽生えた心”の証拠を発端として,「分かち合い」や「協力」といったキーワードの解明を求めて,舞台はボツワナ(狩猟採集民ブッシュマン;サン)や京都大学霊長類研究所(最先端のチンパンジー研究)へとおよぶ。第4章でもアフリカの狩猟採集民である,熱帯雨林に暮らすバカ・ピグミーが取り上げられ,人間社会の平等性や,貨幣経済が浸透しつつある現在の社会変化について紹介されている。

構想から12年を経て映像化されたという番組を合わせて観て頂けるとなお良いが(※DVD化されている),アフリカはもとより,世界各地での取材の様子や著名な研究者へのインタビューの記載は,番組中では語り切れなかった詳細や苦労話も含めて,わかりやすくまとめられている。

読み応えのある本書を手にしながら,20万〜5万年ほど前のアフリカにあるとされる現代人(ホモ・サピエンス)の起源に心を這わせてもらいたい。

「ブロンボズ洞窟の発見は,人類の歴史を完全に変えたとはいいませんが,人間行動に対する私たちの見解を確かに変えました。それは,『アフリカは特別な大陸だ』という気持ちを生み出しました。世界のみながアフリカ人のバックグラウンドを持っているという気持ちです。ここは単なる人類生誕地だけではなく,現代の私たちの行動すべての創造の地でもあることに気づいたことは,大きな考古学的な進歩だったと思います」(ヘンシルウッド博士・ベルゲン大学,ノルウェー;単行本21頁より)

●アフリックのメンバーが取材に協力した章
第1章(丸山淳子)、第4章(林耕次・市川光雄)

目次

  • はじめに 心——この不可思議なもの
  • 第1章 協力する人・アフリカからの旅立ち 〜分かち合う心の進化〜
  • 第2章 投げる人・グレートジャーニーの果てに 〜飛び道具というパンドラの箱〜
  • 第3章 耕す人・農耕革命 〜未来を願う心〜
  • 第4章 交換する人・そしてお金が生まれた 〜都市が生んだ欲望のゆくえ〜
  • 終 章 なぜいまヒューマンなのか

書誌情報

文庫:559ページ
定価:864円(税込)
出版社:KADOKAWA/角川書店 (2014/3/25)
ISBN-13:978-4041012680
発売日:2014/3/25
※本書は角川書店から2012年1月に単行本として刊行されたものだが,今年の3月に文庫版として再版された。