急速な経済成長に沸くアフリカだが、高層ビルの建設ラッシュが見られる都市部とは対照的に、農村部では日々の暮らしをいかに守るかが切実になってきている。容赦なく押し寄せるグローバル経済の影響だけではなく、政治変動や干ばつなどの自然環境の変化にも見舞われるなかで、収入源に恵まれない農村に生きる人々は、これまで使っていなかった林や湿地などの共有地を活発に利用するようになった。そのために、各所で土地やその他の自然資源が人々の間で競合し、希少化する事態が生じている。しかしながら、そういった場で日常的な衝突が生じていても、深刻な対立や大規模な争いへと発展していくことはない。それが本書を執筆したフィールドワーカーたちに共通する実感であり、その謎解きがそれぞれの章で展開されていくのである。
もちろん争いを回避する万能の薬のようなものがあるわけではない。不満を抱え、諍いを繰り返しながらも、人々は在来の知識や制度に外部の技術などを積極的に取り入れつつ、それらが先鋭化しないように工夫する。妥協/和解/協調/合意へと至る詳細なプロセスが描かれており、そこが本書の最大の読みどころだといえる。また、いくつかの章は、人と自然の共存というテーマとも深く関わっており、これは日本のアフリカ研究の草創期からの流れを引き継ぐものとなっている。
本書にはアフリック会員3名(桐越仁美=3章、近藤史=6章、黒崎龍悟=10章)が寄稿している。ぜひ手に取っていただきたい。
目次
序章 生態と生業の新たな関係
<第1部 外部社会との接触>
第1章 富者として農村に生きる牧畜民—タンザニア・ルクワ湖畔におけるスクマとワンダの共存
第2章 民族の対立と共存のプロセス—タンザニア・キロンベロ谷の事例
第3章 コーラナッツがつなぐ森とサバンナの人びと—ガーナ・カカオ生産の裏側で
<第2部 生業構造の変容>
第4章 農牧複合と土地争い—社会と技術の両アプローチを実践した対立の克服
第5章 バナナを基盤とする農耕社会の柔軟性—ウガンダ中部、ガンダの事例から
第6章 半乾燥地域の林業を支える火との付きあい方—タンザニア南部、ベナの農村の事例から
第7章 平準化機構の功罪—ザンビア・ベンバ社会のピースワーク
<第3部 生態資源と生業>
第8章 マルーラ酒が守るサバンナの農地林—ナミビア北部、オヴァンボ社会の事例
第9章 多様性をうみだす潜在力—カメルーン東南部、熱帯雨林における焼畑を基盤とした農業実践
第10章 水資源の活用と環境の再生—小型水力発電をめぐって
終章 争わないための作法—生業と生態をめぐる潜在力
書誌情報
出版社:京都大学学術出版会
定価:4,104円(税込)
発行:2016年 3月
出版社のサイト http://www.kyoto-up.or.jp/book.php?id=2115&lang=jp