『現代アフリカの公共性—エチオピア社会にみるコミュニティ・開発・政治実践』 西真如=著

アフリカが抱えている問題が解決されないのは、アフリカの政府や人びとに何か「欠けている」ものがあるからだという議論があります。例えばそこには、寛容な政治指導者や、合理的な行政組織、協調的な市民が「欠けている」とされます。しかしこのような議論は、そこに「ない」ものにとらわれるあまり、そこに「ある」問題、つまりアフリカで生活する人びとが実際に直面している問題をとらえることができません。私たちは、どのようにして「欠如の論理」を乗り越え、アフリカの人びとが直面する格差と対立の問題に目を向けられるようになるのでしょうか。このことが本書の出発点となる問いです。

本書は、「理論編」と「事例編」のふたつの部分からなります。理論編は、経済的な格差や価値の対立を乗り越えて民主的な社会をつくってゆくための理論的な枠組みを踏まえた上で(第2章)、マハムード・マムダニの議論にもとづき、「市民」と「エスニシティ」というふたつの領域に分断されたアフリカの社会を修復することが、現代アフリカの公共性を考える上で重要な課題であることを示しています(第3章)。

事例編では、おもに住民組織活動の経験に焦点をあてながら、エチオピア社会のコミュニティ、開発および政治実践について検討します。第6章および第7章で取り上げるグラゲ道路建設協会は、エチオピア南部グラゲ県の農村から首都アジスアベバに移住した人びとが、故郷の村に道路や学校を建設する目的で、1962年に設立した住民組織です。同協会の活動は、格差を生み出す社会構造に対抗して、新たな再配分の回路を切り開いてゆく政治実践であったと考えることができます。このほか事例編では、エチオピア連邦政府が推進する民族自治と結びついた地方分権政策の問題や(第5章)、アジスアベバ市民による葬儀講(死者を葬ることを目的とする住民組織)の活動がつくりだす「配慮する共同体」についても検討しています(第8章)。

書誌情報

単行本: 289ページ
出版社: 昭和堂
発行日: 2009/02/28
価格: 4,935円(4,700円+税)
ISBN-10: 4812209064
ISBN-13: 978-4812209066