スポーツハンティングとは、なにか。
それは、娯楽やトロフィー(いわゆる頭の剥製)のために野生動物を狩猟する観光のことである。
このように聞いて、多くの人は、「なんて残酷な!」と眉をひそめたり、「野生動物は絶滅しないのか?」と訝しがっただろう。
これは植民地時代の話や、ヘミングウェイの小説のなかの話ではない。
現在でも、多くのアフリカ各国でおこなわれていることである。
では、なぜ、動物愛護や野生動物保護と逆行するようにみえるスポーツハンティングが、環境の時代とも言われる現代でもおこなわれているのだろうか。
そこには、本書のタイトルにもなった「護るために殺す」という論理がかかわっている。これは、スポーツハンティングは「生態的な持続可能性と経済的な豊かさを保障する」とされることに由来する。つまり、生態的なデータに基づいて設定された捕獲枠や狩猟規則を遵守すれば野生動物は絶滅することはなく、そこから永続的に生み出される経済的利益は、地域社会の発展と野生動物保全政策に大きく貢献するというものである。
こう聞くと、「残酷だ!」と思われた人も、「残酷だけど、貧しいアフリカに住む人たちの助けになるなら・・・」と思い直されたかもしれない。
「護るために殺す」という論理に支えられたスポーツハンティングは、一見、人と野生動物との共存をめぐる問題のための理想的な解決策にみえる。
しかし、「スポーツハンティングによって野生動物は絶滅しないし、地元の人々はお金をもらって幸せ」というユートピア的なシナリオは、その地域に住む人々も共有しているのだろうか。地域に住む人々にとって、スポーツハンティング、そして野生動物とはどのような存在なのであろうか。本書は、筆者が約2年間にわたってカメルーンでおこなってきたフィールドワークをもとに、生活者の立場と視点から、アフリカにおけるスポーツハンティングと地域社会の関係、そして、人と野生動物の関係の問題をとらえ直すことを目的としたものである。
目次
はじめに
第1章 人,獣を狩る
第1節 スポーツハンティングの現状とアフリカ
第2節 スポーツハンティングの「誕生」とアフリカへの進出
第3節 「時代遅れな狂気の遊び」か,「現代の野生動物保全の特効薬」か
第4節 本書の視座と目的
第2章 カメルーン北部州のサバンナに響く銃声
第1節 スポーツハンティングと自然保護政策の歴史
第2節 スポーツハンティングのいま
第3節 政府と観光事業者にとってのスポーツハンティング
第3章 スポーツハンティングがもたらす光と影─A村の事例
第1節 狩猟区に生きる人々
第2節 A村周辺の地域史──スポーツハンティングとの「遭遇」
第3節 スポーツハンティングがもたらす「光」
第4節 狩猟区に住む人々にとっての野生動物
第5節 スポーツハンティングがもたらす「影」
第6節 「光」の拡充と「影」の固持
第4章 新たな銃声がもたらすもの─X村・Y村の事例
第1節 発砲を妨げるもの
第2節 差し込む「影」
第3節 「私はラミドの言葉に従う」
終章
第1節 護るために「殺されるもの」と欠けた柱
第2節 「持続可能性」と重い歴史の「桎梏」
おわりに
書籍情報
出版社: 勁草書房 (2013/2/15)
定価:3570円+税
単行本: 228ページ
ISBN-10: 4326602503
ISBN-13: 978-4326602506