『焼畑の潜在力―アフリカ熱帯雨林の農業生態誌』四方篝 (著)

紹介:目黒 紀夫

みなさんは、バナナがどんな風に「畑」に生えているか知っていますか? あるいは、アフリカ熱帯雨林のなかにつくられた「バナナ畑」ってどんなものだと思いますか? その答え(の一部)は表紙の写真にあるので、まずは、表紙の写真を出版社やアマゾンのウェブサイトで見てみてもらいたいのですが、ケニアの半乾燥地で調査をしている私などからすると、それはもう「森」をとおりこして「密林」という感じです。著者も最初に見たときには「ここが畑なの?」とおどろき、「はて、バナナは森で育つものなのか? いや、彼女[住み込み先のお母さん、紹介者注]は『畑』だと言ったではないか?」と首をかしげたそうです(「はじめに」より)。アフリカの熱帯雨林というと、一般にピグミーと(まとめて)呼ばれる狩猟採集民の人たちがとりあげられることが多いかと思いますが、それとはまたちがう、アフリカ熱帯雨林ならではの農業の姿がこの本では描かれています。

本書はタイトルにもあるように「アフリカ熱帯雨林の焼畑」についての研究結果をまとめたものです。森を伐り拓いて畑にしては、数年後にはその土地を放棄して他の場所に移動して新たに畑をつくる焼畑は、1970年代に森林破壊の元凶として非難されました。それがさまざまな誤解にもとづくことは1990年代以降に明らかにされてきたわけですが、そうした「森を伐る焼畑」にたいして、畑にいろいろな木を植えるアグロフォレストリーが「森をつくる」農法として近年脚光を浴びるようになっています。一見すると「森を伐る焼畑」と「森をつくるアグロフォレストリー」は正反対の農法のように思われるかもしれません。しかし、実際には焼畑もアグロフォレストリーも研究者によって使われ方はさまざまであり、重なりあう部分も多い言葉です。

著者はこれまでのアグロフォレストリー研究には、agro(農業、とくには主食作物生産)の部分、あるいは農業(agriculture)という言葉にもともとふくまれていたculture(文化、本書の内容にそくしていえば人びとの畑や森、生計にたいする考え方)の側面が欠けてきたのではないかと考えています。そうした問題意識のもと、カメルーン東部に暮らし焼畑農耕をおもな生業としているバンガンドゥの人びとの村で、いかに「森」のなかにバナナそしてカカオの「畑」がつくられているのか、そして、そうした畑がどのようにして「森にもどる」のか、そこにおいて生物多様性がどれほどに保全されているのかを調べていきます。

著者もくり返し書いていますが、本書はアグロフォレストリー概念を一概に否定するものではありませんし、焼畑とアグロフォレストリーを厳格に区別しようとしているわけでもありません。ただ、これまでのアグロフォレストリー研究では見落とされがちだった農業実践の全体像や、それを支える人びとの価値観や技術を丁寧に拾いあげていることで、その偏りの是正をうながしています。また、本書ではバンガンドゥの人びとにとって主食作物であるバナナとならんで、グローバルな商品作物であり最近はフェアトレードのような形で関心が高まってもいるカカオが取り上げられています。バンガンドゥの人びとがカカオのフェアトレードに参加しているわけではないのですが、彼ら彼女らがいかにバナナとカカオを焼畑のなかで組み合わせて「おいしい関係」をつくりあげているのかは、そうした問題に関心がある人にとっても参考になるのではないかと思います。

目次
はじめに
第1章 序論―焼畑か? アグロフォレストリーか?
第2章 バンガンドゥの生業―農耕を軸とする多面的資源利用
第3章 森にもどる畑―焼畑におけるバナナ生産
第4章 バナナとカカオのおいしい関係―自給作物と商品作物の共存の基盤
第5章 カカオ畑の樹木―「森にもどる畑」における生物多様性
第6章 結論―焼畑の潜在力

書籍情報

出版社:昭和堂
定価:5,400円税
発行:2013年3月
A5判/240頁
ISBN978-4-8122-1306-3