『髪を装う女性たち −ガーナ都市部におけるジェンダーと女性の経済活動』  織田雪世=著

紹介:織田 雪世

ガーナ南部地方の街を歩くと、ヘアサロンの数に驚かされる。あちこちに鮮やかな色のサロンがあり、美容師や見習が客の髪を結っている。美容師や客のほとんどは女性だ。サロンがここまで増えた背景には何があるのか、美容師とはどんな人びとで、どんな文脈で、なぜ美容師になったのか。本書は、著者がガーナの美容師のもとで行った約3年間のフィールドワークをつうじて、現代アフリカ都市女性の生き方の一端に迫ろうとしたものである。

ガーナ南部地方の女性は、男性との間に分離的な関係をたもち、家事・育児にかかる責任を柔軟にやりくりしながら、自立的な商売と家事・育児との両立をはかることが知られてきた。しかし資金や教育へのアクセスは必ずしも十分ではないうえ、政策変化や核家族化のもとで、女性の負担は増えてきている。こうしたなかで近年急増したのが、サロンで美容師として働く都市女性の姿である。

筆者は、パーマなどの近代的ヘアドレッシング技術がひとつのカギを握っていたことを明らかにする。1980年代以降の政治経済的変化を背景に普及した近代的ヘアドレッシング技術は、サロンへの需要を拡大し、都市の「行き場のない」若い女性たちに、仕事と、資本・労働面の制約を克服して恋人や夫との間に新しい協調的関係を築く手がかりを提供した。

美容師業は、技術とファッションの両方にかかわる職種である。近年のサロンは、競争の激化や厳しいビジネス環境のもとで、高級化と淘汰の時代を迎えつつあるが、そのなかでの生き残りを図る過程で、一部の美容師の間には、たんなる「学校中退者の仕事」から一種の「専門職」へという性格変化の芽がうまれている。これは、彼女らが美容師業という女性に割りふられた経済活動への従事をつうじて、夫や子どもをサポートすると同時に一個の職業人でもある存在として、みずからを再定義しつつあることを示している。

人として、女性として生きていくことの大変さ、喜び。おしゃれのわくわく感や、手仕事の心強さ。変化する社会的・経済的環境と、不確かなことの多い日々を、美容師という技術職をひとつの支えとして生きていく女性たちの息づかいを、共感をもって感じて頂けるとしたら幸いである。

目次
0.はじめに
1.アクラ・ヘアドレッシング事情
2.髪を装うということ
3.サロンビジネスを担う女性たち
4.美容師という選択
5.営業形態の上昇と美容師が直面している困難
6.継続営業サロンの対応と美容師業の「専門職」化
7.おわりに

書籍情報

出版社:松香堂書店
定価:3,000円+税
発行:2011年 6月
B5変形判/390頁
ISBN-13: 978-4879746399