『「アフリカ」で生きる。―アフリカを選んだ日本人たち』 ブレインワークス=編著

紹介:松浦 直毅

何十年前の認識で止まっているのかと思いたくなるようなアフリカ蔑視にもとれる国会議員の発言がニュースで取りざたされている。「黒人」を意味していたのではなく「暗黒大陸」からとったのだなどと苦しい弁解をしているが、弁解として苦しい以前に、アフリカを未開とみなす植民地時代の表現であって差別的なことに変わりがないという点で、弁解にさえなっていない。アフリカが「最後のフロンティア」であるという認識さえ一昔前のもので、様々な企業や団体がアフリカに進出し、数多くの事業が展開している現在、アフリカはもはや単なる支援の対象では決してなく、重要なビジネスの対象であってパートナーでもある、という認識を当たり前のこととしたいものである。

中小企業総合支援サービスを展開する企業グループがまとめた本書は、アフリカ各地でビジネスや人道支援活動に取り組むさまざまな人が紹介されており、現代アフリカの「生の姿」を知ることのできる1冊である。何十年もアフリカに関わってきた大ベテランから、つい最近になってアフリカで事業を起こした若手起業家まで、男性も女性もそれぞれに、さまざまなアフリカと関わった人生が紹介された本でもある。幼いころからアフリカで支援活動をしたいと思い、高い志と使命感をもって実際に医療や福祉、教育などの分野で活躍している方もいれば、たまたま知り合ったアフリカ人と意気投合してアフリカに流れ着いた人もおり、アフリカとの出会いやおこなっている活動も十人十色である。

しかし、本書に登場するどの人にも共通することがある。それは、誰もがアフリカの魅力にはまり、生き生きと活動に邁進していることである。そして、上から目線、差別、先入観を捨てて地元の人たちと真剣に向き合う態度や、多くの困難や問題に直面しながらもポジティブに乗り越えていく姿勢も共通している。「アフリカで生きる」ためには、ときに「骨を埋める覚悟」をもって長くかかわり続け、さまざまな犠牲を払っても挑んでいく心構えと、その一方で、まわりで起こる事態を柔軟に受け入れ、「何とかなるさ」と楽観的であることの両方が必要なのではないかと思う。「アフリカにはあれもこれもない」と嘆いたりあきらめたりするのではなく、「何もないからこそ何でもできる」と考え、チャンスととらえる発想の転換が印象に残った。

ニュースでは、託児の整備などを訴えてきたもの対応が得られなかった挙げ句、最後の手段で議会に赤ん坊を連れてきた地方議員の女性が、秩序を乱したとして処分されるなどと報じられている。なんと狭量で非寛容な発想だろうか。本書にも「日本の方が窮屈で生きづらい」という意見があるが、アフリカなら何ら問題にならないのではないかと思えてくる。本書は、「アフリカで生きる」術を教えてくれるだけでなく、生き方そのものを考えさせる1冊であり、アフリカに関心をもつ若い方々から、かつてアフリカに憧れた人まで、多くの人にお勧めしたい。

書誌情報

単行本:222ページ
出版社:カナリアコミュニケーションズ
発行:2017年 4月
定価:1512円(税込)
ISBN-10:4778203801
ISBN-13:978-4778203801