『世界の食文化㉃ アフリカ』 小川了=著

紹介:黒崎 龍悟

本書は、農文協から出版されている世界の食文化を紹介するシリーズのアフリカ編である。
前半はアフリカの食の特質についてまとめ、後半は各地域の紹介という構成になっている。本書の各所には、アフリカの食文化を知るうえで興味深い事項がちりばめられているが、ここでは、前半の「アフリカの食の特質」のところでとくに関心をひかれた事項を紹介したい。

■アフリカの主食は「噛む」のではなく「飲む」
著者は、アフリカの各地では、食事を「飲む」と表現することが多いことに注目する。その理由はふたつあると述べている。
ひとつは単純な理由で、食材の精製プロセスが日本のように厳重に管理されているわけではないので、どうしても小石などが混じり、噛んだときになんともいえない感触に悩まされるからだということである。わたしも調査で訪れるタンザニアで食事をする際、混入した小石には何度もなやまされた経験がある。
ふたつめの理由は社会文化的な背景から推測する。それは、食事というものが、すでに手を加えられているためだという。つまり、料理をしない動物は、手を加えられていないものを食べる。加工されていないものを食べる。だからそこで原材料に近いものを食べるうえで咀嚼という行為が必要である。料理は自然と文化の境目であり、人間を人間たらしめる行為である。料理されたものをあえて噛む必要はないのだ、とアフリカの人びとが考えているという解釈で、興味深い。

ただし、著者も注意を促しているように、アフリカの人々は何でもかまずに飲み込んでいるわけではない。この話は主食なる穀物を料理したもの、という限定がつく。私の経験をもとについでに言うなら、アフリカの人たちのかむ力は日本人の及ぶところではない。

タンザニアではウガリと呼ばれるトウモロコシの粉(あるいは他の穀物やキャッサバ由来の粉)を練ったものが主食である。わたしも一緒に食事をする人たちのウガリを飲み下す「ゴクッ」という音を良く聞いて、似たことを考えたものだった。日本には、ときどき「のどで味わう」という表現をするが、それを連想していた。
また、飲み下す際の滑りをよくするために、おかずを食用油で調理することが必要だというコンゴの事例も紹介されている。 タンザニアでは、精製された食用油は比較的高価で、端境期のように、生計がひっ迫する時期になると、油を使わない料理が多くなる。現地の人は皆、油を使う料理の味が大好きであるから、油を使わないと味が落ちるのでいやなのかと考えていたが、滑りがよくならないという理由もそうなのかもしれない。

本書の特徴は、食事やそれにまつわる作法が、「どのようなものなのか」ということだけでなく、「なぜそうなのか」ということも解説している点にある。アフリカは、品目や調理方法という点からいえば、日本のような地域に比べて食生活の内容は豊かではない。しかし、本書を通して、食事をするという行為が文化と一体となって息づいているのがよくわかるし、食生活の本質が必ずしも品目や調理方法ではないということを垣間見るだろう。文化から切り離された食をする人が多い現代社会こそ、アフリカのような「食文化」を知る必要がある。

書籍情報

    出版社: 農山漁村文化協会
    単行本: 278ページ
    発売日: 2004/11/1
    ISBN-10: 4540040871
    ISBN-13: 978-4540040870