『タンザニアに生きる—内側から照らす国家と民衆の記録』 根本利通=著、辻村英之=編集・解説

紹介:黒崎 龍悟

著者の根本さんは、反アパルトヘイト運動をきっかけにアフリカに関心を持たれ、その後、1980年代にタンザニアのダルエスサラーム大学に留学した経歴を持ちます。やがて現地で旅行会社を興し、単に「お客さんをもてなす」観光とは違う「オルタナティブ・ツアー」というものも企画して、日本とタンザニア(アフリカ)を等身大の姿でつなぐことに力を注いできました。本書はそのような経歴/遍歴のなかで編まれたものです。現地の人びとの視点から、定点観測的に見ることで浮かび上がる国家や人びとの姿を緻密に描きだしています。

本書は、7つの章で構成されています。基本的に序章以外はどの章のどの話からでも読み始めることができますが、「経済の自由化」や「政治の自由化」章のなかでは内容が時系列になっていたりするので、章をまとめて読むことをお勧めします。政治的な話なども政界の裏話などが交えられていて面白いですが、個人的には、計画断水や停電などの何気ない日常(?)の紹介とそれに対して述べられる著者の考えが読みどころのひとつだと思います。

序章 タンザニアに生きる—「内側から照らす」意味
第1章 歴史と遺産
第2章 社会主義の夢と現実
第3章 経済の自由化
第4章 政治の自由化
第5章 人びとと暮らし
第6章 自然と文化

紹介者は、タンザニアでフィールドワークをしていて、著者の根本さんには大変お世話になってきました。長くフィールドワークをしていると、自分はそこ(タンザニア)を良く知っているという自負を少なからず持つようになりますが、日本とタンザニアを行ったり来たりしているだけで得られるそのような自負は、根本さんの前ではいつも吹き飛んでいました。本書の副題にある「内側から照らす」というのは、単に現地の事情を詳しく知っているということではなく、一定住者としてのまなざしを意味しているのだと理解しています。著者のタンザニアを見る目は、愛着にあふれながらも決して楽観的ではありません。優しさと厳しさが入り混じった物言い/文章は、説得力をもって読者に迫ってきますが、それは現地コミュニティとともに生きる定住者のまなざしが持つ迫力から来ているのではないでしょうか。

「日本人が見たいアフリカではなくて、アフリカ人が伝えたいアフリカを知り、それを伝える努力をしたいと思う」(24ページ)。というフレーズが印象に残ります。個人的には、とくにこれからアフリカ/タンザニアに向かおうとしている若者に読んでもらいたいと考えます。

残念なことに著者の根本さんは、2017年2月に急逝されました。過日6月3日、著者を偲ぶ会が開かれ、多くの人に送られました。心よりご冥福をお祈りします。

※オルタナティブ・ツアーに関してはこちらのページに詳細があります。

書誌情報

出版社:昭和堂
発行:2011年
単行本:239頁
定価:2,700円(+税)
ISBN-13:978-4812211274