動き出したハッピーハニー・チャレンジ 盛り上がる村びとたち

目黒紀夫

ハッピーハニー・チャレンジをつうじたアフリックからの支援もあって、2012年9月に100個の養蜂箱が設置されたロムチャンガ村ニャセローリ地区。

順調に養蜂箱の設置がすすんでいるようですが、はたして養蜂箱はゾウに効果があったのか? 村びとはハッピーハニー・チャレンジをどう思っているのか? 2013年2月に渡航してわかってきた現地の状況を報告します。

養蜂箱の設置状況

100個の養蜂箱は4ヵ所に分けて設置されていました。それぞれテンボ(tembo、スワヒリ語でゾウの意味)A〜Dと呼ばれており、村のなかでもゾウがひんぱんにとおる土地を選んで設置されていました。また、各テンボの土地の所有者を中心とする5人の村びとが、管理グループを結成していました。このグループのメンバーや設置場所については、現地NGOのSEDERECが村びとと話し合って決めました。

テンボ4ヵ所を見てまわったところ、ミツバチが入っている養蜂箱は全体の半分ほどでした。なかには蜂蜜で重くなって箱が傾いてしまったものや、数メートルの距離に近づくのがためらわれるほどにミツバチのブンブンいう音が聞こえてくるものもありました。今回の渡航時までに蜂蜜の採取はおこなわれていませんでしたが、村の近くでロッジを経営している観光会社がもうすぐ蜂蜜の採取・買い取りにくるといっているとのことで、村びとはそれをとても待ち望んでいました。

養蜂箱の効果を語る現地NGO職員

養蜂箱の効果についての村びとの語り

ここではテンボDの土地所有者であるエゼケリおじいさん(63歳)の話を紹介します。

おじいさんによれば、ゾウは畑の作物が収穫まぢかになるとよく来るとのことです。1週間つづけて毎晩来ることもあるし、それで夜から翌朝まで畑に入ろうとしてあたりをうろうろしていることもあるといいます。ゾウを追いはらうため、村では近所の人どうしが一緒に協力して見張りや追いはらいをしていますが、村びとにできることといったら手近にあるいろいろなものを使って大きな音だしたり大声を出したり、それと一緒に大型の懐中電灯の明かりを当てたりすること。なかなか、かんたんにはゾウを追いはらえません。

追いはらいの様子を再現してくれる村人

去年、おじいさんは4エーカー(約1.6ヘクタール)の土地をテンボDとは別に耕しました。でも、3月から5月にかけて何度もゾウの群れに荒らされただけでなく、がんばって収穫した農作物を保存しておいた貯蔵庫(大きなカゴ状の容器)を倒されて中身を食べられてしまいました。けっきょく、実際に食べることができたのはわずか0.4エーカー分ほどの量で、おじいさんはウシ2頭とヤギ10頭を売って生活に必要なお金をかせいだといいます。

いっぽう養蜂箱が設置されたテンボDの畑ですが、去年(2012年)12月に何十頭ものゾウが村に来た時には一定の効果があったといいます。川沿いに移動してきたゾウは畑に入ろうとしたけれど、ちょうど畑への通り道に設置されていた養蜂箱にミツバチが入っていたことで、そこからの侵入をあきらめ進路を変えたというのです! このとき、ゾウはぐるっと畑のまわりをまわってテンボDの畑に侵入してしまったのですが、実際に養蜂箱をゾウが嫌がるのを見て、おじいさんはハッピーハニー・チャレンジの可能性を強く感じたそうです。

畑を取り囲むように設置された養蜂箱の効果を語る村びと

養蜂箱をもちいたゾウの追いはらいが数年前から試みられているケニアでは、養蜂箱と養蜂箱をワイヤーでつなげることで、ゾウが箱を避けて畑に入ろうとしてもワイヤーをひっぱって箱を揺らし、ミツバチが追いはらいに出てくるように設置されています。ニャセローリ地区では、ワイヤーでつなぐとまとめてゾウに壊されてしまうのではないか(それによって村びとのやる気が一気に失われてしまうのではないか)、多くの村びとが村内で放牧しているウシにとって危険ではないのか、といった点からワイヤーは設置されていませんでした。でも、実際にその効果を目の当たりにしたことで、おじいさんもワイヤーの設置にとても積極的になっていました。もっと多くの養蜂箱にミツバチを呼びこめば、そこから採れる蜂蜜を観光会社に売ってお金をかせぐことができるし、また、ミツバチが入った箱と箱をワイヤーでつなげば、もっと効果的に畑をゾウから守ることができるはずだというのです。それだけでも一石二鳥ですが、うまく養蜂箱を活用することで村全体の畑を守れたら一石三鳥とさえいえます。そうしたわけで、エゼケリおじいさんやテンボのメンバーだけでなく、他の多くの村びともさらなる養蜂箱の設置を切望しているとのことでした。

グループの人たちと一緒に記念撮影

今後のハッピーハニー・チャレンジ

これまでのところ、養蜂箱はケニアの例にならってテンボA〜Dの4つの土地を外周に設置されています。しかし、これでは村の多くの畑を守ることはできません。そこで、今後は養蜂箱を村の周縁部やゾウの通り道に線状に設置して、場合によっては箱と箱とをワイヤーでつなぐことで、いわば「養蜂箱の壁」をつくってゾウの村への侵入それ自体を防ぐことを試みる計画です。

もちろん養蜂箱さえ設置すればゾウを追いはらえるというわけではけっしてなく、村びとの日常的な管理や見張り、追いはらいも必要不可欠です。ニャセローリ村ではすでに隣人と協力して一緒に畑を守ることが取り組まれていますが、この半年のハッピーハニー・チャレンジの成果により村びとのやる気は高まりを見せています。そうした在来の努力とむすびつくことで、村びとにとって念願であるゾウによる農作物被害の防除、さらにはゾウとの共存が現実するというのも、決して夢物語ではないように思います。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。