アフリカゾウを追い払う困難さ(2017年4月)

岩井雪乃

タンザニアのセレンゲティ国立公園で実施しているゾウ被害対策「ハッピーハニーチャレンジ」の近況をお伝えします!岩井が2月に現地に行ってきました!

ゾウを追い払う様子を観察

タンザニア北部では、2000年代に入ってからアフリカゾウが農作物をあらす害獣となっています。以前、ゾウは保護区内にいましたが、村の中まで畑の作物を食べに入ってくるようになってしまい、時には人が殺される事件も起きています。村びとたちは、自分の生活と生命を守るためにゾウを追い払い、保護区に戻そうと努力していますが、10トンもある巨大な生物に立ち向かうのは命がけで、簡単なことではありません。そして、それが1頭のみならず、多いときには200頭もの群れで押し寄せて来ることもあるのです。このような状況に人びとはどう対処しているのでしょうか。

写真1 家の前で平然と木を食べるゾウ

2月のある日

その日の午後4時ごろ、村びととともに、村と保護区の境界に設置しているワイヤーフェンス(われわれのプロジェクトで設置)を見回っていると、ゾウの群れ(6頭)を発見しました。ゾウは、まだワイヤーの外(保護区側)にいましたが、しきりにワイヤーを嗅ぎ回っていて、今にもポールを倒して入ってきそうでした。この日の前日は、久しぶりに雨が降った日でした。村びとによると、ゾウは雨が降った後に畑に来ることが多いそうです。今の時期は、まだ畑の作物(トウモロコシ)は50cmていどで小さく、ゾウにとって食べごろではない時期です。それでもやってくるのは、雨の後はいい匂いがしているのでしょうか。

写真2 村の中に入っているゾウ

近所の若者たちに連絡がいき、すぐさま10名ほどが集まりました。口笛、ブブゼラ、バロティ(銃声に似た音がでる手作りの爆竹機)、犬、弓矢など、それぞれに持っている道具を駆使してゾウを脅かしながら走り回りました。ようやく、ワイヤーから離れた保護区の方へ追いやることに成功した時には夜8時になっていました。その日、家に着いたのは夜10時を回っていました。

写真3 ワイヤーを嗅ぎ回るゾウ

写真4 若者たちの追い払いチーム

写真5 ようやく終わったときには真っ暗に

ところが翌朝

ゾウはワイヤーの切れ目を見つけ出し、村の中に入っていました。朝8時から、再び追い払いです。15名が集まって出動。しかし、3時間追い払っても、ゾウは出ていってくれません。脅かされて逃げて、そしてワイヤーにぶつかると、また村の方に戻ってきてしまうのです。なかなかワイヤーの切れ目に行ってくれません。そのうちに、群れが分かれて2頭と4頭になってしまい、追い払う人数が足りなくなってしまいました。近隣地区からも応援をよび、さらに人数を増やして右往左往すること10時間。夕方6時になって、ようやく切れ目から保護区へ出ていきました。

写真6 弓矢と山刀は基本装備、ブブゼラも効果的

写真7 手作りの爆竹機、銃声のような爆音がする

帰路につく時、若者たちは満身創痍でした。ゾウとともに数十キロを走り回った結果、ねんざして杖をつくもの、木の根を踏み抜いてびっこを引くもの、爆竹機でやけどしたもの・・・。そして、全員が疲労困憊してお腹をすかせていました

写真8 木の根につまずいてねんざしたメンバー

わたしはこの翌日に村を後にしましたが、その日の晩にもまたゾウの群れが来て、若者たちは一晩中追い払いをしたそうです。彼らは、寝る間もなく、農作業や家畜の放牧など他の労働をしている暇もありません。これでは彼らの生活が成り立たず、追い払いを続けることもできなくなり、ゾウに対処できなくなってしまう心配があります。そうなった時、人びとは自らの生活をどうやって成り立たせるのでしょう? ある村びとは、「畑の作物をゾウに食べられてしまうなら、狩猟をするしかないじゃないか」と怒りをあらわにしていました。

セレンゲティ地域の人びとにゾウを保護することを強制しているのは、タンザニア政府であり、観光業者であり、ゾウを見たい観光客であり、自然保護を求める先進国のわれわれです。村びとが試みている「ゾウと共存するための追い払い」を、遠くにいるわたしたちはどう支援できるでしょう? これまでゾウ基金の活動では、32kmのワイヤーフェンスを設置してきました。次は、この追い払い活動をいかに支援できるか、新しい展開を模索しているところです。

ABOUTこの記事をかいた人

日本とアフリカに暮らす人びとが、それぞれの生き方や社会のあり方を見直すきっかけをつくるNPO法人「アフリック・アフリカ」です。