『ランボー、砂漠を行く—アフリカ書簡の謎』 鈴木和成=著

紹介:庄司 航

19世紀後半のフランスの詩人アルチュール・ランボーは、15歳から20歳までの詩作によって文学史上に不滅の足跡を残した。だがそれ以降彼は詩を放棄し、エチオピアのハラルを拠点に商人として暮らす。本書は、ランボーが本国とやりとりした書簡を検討することで、ランボー像の再考を試みている。

ランボーの20歳までの詩については無数の研究があるが、「詩を放棄した」あとのアフリカで書かれた書簡についてはこれまでかえりみられることがほとんどなかったと著者は指摘する。

本書の目的は書簡の内容から詩人ランボーの人物像を再構成することにあるが、当時のエチオピアの様子を伺うこともできる。

本書のクライマックスは、ランボーが小銃数千丁をラクダ百頭で輸送する仕事の準備のため紅海沿岸の街タジュラに滞在していたときの記述かもしれない。準備に手間取って出発は遅れに遅れ、結局1年近くこの街に滞在することになった。体内の時間の流れがどんどん緩慢になっていく様子が書簡から見てとれる。著者はこの時期の書簡の文章に、ランボーのアフリカ書簡のエッセンスを読み取っている。

「俺はヨーロッパを去る。海の空気は俺の肺臓を焼くだろう。僻陬(へきすう)の気候は俺の肉を鞣(なめ)すだろう」と『地獄の一季節』で宣言した通りに、ランボーはヨーロッパを出てからおよそ10年の間一度も本国フランスに戻らなかった。そして次に戻ったときは、マルセイユの病院で37歳で死んでしまうのだ。

見えないものも見ることができる「見者」と自称したランボーの目に、アフリカはどのように映ったのか、思いを馳せながら読むと楽しい。

私が通っていたケニアの首都ナイロビにはアーカイブ・センターがあり、昔の植民地行政官らが本国とやりとりした書簡も保存されているという。そうした書簡から当時の生活を読み解くのもいつかやってみたいものだ。

書誌情報

単行本: 376ページ
出版社:岩波書店
定価:2,800円(税別)
出版年:2012年
ISBN-10:4000285548
ISBN-13:978-4000285544