紹介:近藤 史
トウガラシは、アフリカでとても身近な香辛料だ。例えばエチオピア料理に多用される真っ赤な総合調味料「バルバレ」は、その鮮やかな色彩から想像されるとおり、トウガラシ粉の割合が50パーセント以上を占めるという。私たちアフリックの会員がアフリカ料理の作り方を紹介するアフリクック・プロジェクトでは、現在(2018年4月)までに96のレシピを掲載してきた。そのうち、調理過程でトウガラシを加えたり、食べるときにアクセントとしてトウガラシやそのソースを添えると書かれたレシピが28、全体の3分の1を占めている。
アフリカ各地の食文化と結びついて私たちを魅了するトウガラシだが、アフリカで栽培されるようになったのは16世紀以降だといわれている。では、トウガラシはどこからやって来たのか?どのようにして、アフリカの人びとに受け入れられていったのか?
そんな疑問に答えてくれるのが本書、『トウガラシ賛歌』だ。トウガラシに魅了された研究者や写真家、シェフなどが20名も集まり、編者の山本紀夫さんとともに、世界各地で出会ったトウガラシの食文化などを紹介している。原産地の中南米にはじまり、ヨーロッパ、アフリカとアラブ、東南・南アジア、東アジアと、その伝播経路をたどりながら、トウガラシの魅力と秘密に迫る。
この本は正面からアフリカを扱うものではないが、トウガラシという切り口から、世界とつながるアフリカの姿を立体的に捉えることができると思い、今回、おすすめアフリカ本に取り上げた。約300ページにわたって世界各地のトウガラシ事情が綴られるなかで、50ページほどがアフリカに割かれている。他地域の様子と比較しながら読みすすめることで、アフリカのトウガラシについて単独で紹介されるよりもずっと深く理解することができるだろう。「辛さ」だけは語れないトウガラシ食文化の奥深さはもちろん、食用ではない、意外なトウガラシの利用方法まで、驚きとともに楽しめる一冊だ。
書誌情報
出版社: 八坂書房
定価:本体2,400円+税
発行: 2010年4月
単行本:294頁
ISBN: 978-4896949544